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□遠く離れた場所で
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携帯がメールの着信を告げた。
彼だけの着信音にドキドキしながら画面を開くと短い分が並んでいた。

【仕事で行けない。ごめん。】

大きくため息を一つついて開かれた窓から流れる雲を見つめる。
会えない時は電話じゃなくメールでと頼んだのは綱吉だった。

(声を聞けば泣いてしまうから・・)

雲雀もそんな気持ちを分っているのだろうメールも電話も極まれにしか送ってこない。


先月は綱吉が仕事で会えずじまいで、その前はわずか2時間の邂逅だった。
そんなわずかな時間に会った恋人のぬくもりを思い出し自分で自分を抱きしめる。

「・・ヒバリさん・・」

(綱吉・・愛してるよ・・)

日本から遠く離れたイタリアの空の下いつも思うのは彼の事だけだ。

「・・愛してる・・愛してる・・」

何度も呟き自らをギュッと抱きしめる。



(メールの返事をしなきゃ・・)

握りしめた携帯を開き画面を見つめる。

【いいんですよ仕事頑張って下さい】
【無理しないで下さい。時間とれるようにオレも頑張ります】
【気にしないで下さい。お疲れ様です】

何度も書いては消すメッセージに本当の気持ちは書くことができない。

(今、会いたい。すぐに会いたい)

ポロッっと頬の上を真珠のような涙が零れおちた。

「・・うっ・・」

流れ落ちた涙をぬぐう優しい指はなく更に真珠は零れおちていく。

「・・っふ・・ヒバリさん・・会いたい・・」


握られた携帯がまた着信を告げる。

(・・メール?)

画面を見つめれば電話であった。
急いで通話にすると

『・・綱吉?』

低いバリトンが耳をうつ。

「・・なんで?」
『君が泣いているような気がしたから・・』
「・・・」
『・・綱吉?』
「・・・」

泣き声を我慢しようと何度も何度も目に力を入れるが優しい声に我慢できずに後から後から涙が溢れてくる。

「・・雲雀さん・・」
『・・ん?』
「・・会いたい・・」

一言告げてしまえばもう想いを止められなく何度も何度も同じ言葉を繰り返してしまう。

電話の向こう、はるか彼方の彼はそのたびに

『うん』

と優しく優しく相槌をうち会いたいと壊れたレコードのように繰り返す綱吉に囁いた。





「後はまかせるよ」

慌ただしく出かける主の背中に向かい

「お気をつけて」

と草壁は返し先ほどの主の言葉を思い返す。

『あの子が泣いてるんだ。行かなきゃ』

草壁が知る沢田綱吉は決して我儘を言わない。
そんな彼が『会いたい』と泣いているというのであれば何を置いても主を送りださなければならないだろう。

(さぁ仕事の調整を図らなければ・・)

草壁は残された仕事にため息をつきつつ二人の邂逅を喜び笑みを浮かべた。




機上の人となった雲雀は小さな恋人の事を考えていた。

(四六時中君の事しか考えられない僕を君は笑うだろうか・・)

会ったら思い切り抱きしめキスを交わし愛し合おう。
僕も君と同じように『会いたい』と何度眠れない夜を過ごしたかと伝えよう。

「愛してるよ」

そっと目を閉じ愛しい恋人を思い眠りについた。
目が覚めたらあの子に会える・・・。




遠く離れた場所でふたり
はるか彼方の空の下で
この遠い距離を埋めてくれる
愛の言葉 今すぐに聞かせて

遠く離れた場所でふたり
はるか彼方の空の下で
ただ一言だけでもいい
「会いたい」届けたい
この想い キミだけに・・


遠く離れた場所で feat.C Lily

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