小説

□第一章
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世界の始まりは必ず無であった。そして、無から光と闇が生まれ、光と闇は互いに共存してきた。では何故闇は光に屈するのか……。

こんな事を昔、創造神である父に問われた事があった。当初の自分は幼く、質問の意図が分からなかった。いや、正式には今でも分からない。何故今更になってこんな昔の事を思い出すのだろうか……。
溜め息を吐けば、回りに控えている騎士たちに緊迫した雰囲気が漂う。

「父上が亡くなってからもう五日は経っている。まだ、瑠祇は部屋に籠りっぱなしなのか?」

玉座に座るは長く白い髪をした女性─太陽神ソル─だ。
しかし今現在ソルは相当立腹しているのか、玉座の膝置きに腕を置き、親指でコツコツと何度も膝置きを叩き苛立ちを隠せないでいた。
これは紛れもなく怒っていると悟った者たちは、ソルとは視線を一切合わせようとはしない。

「まったく……。父上が亡くなって何故あいつが悲しみに暮れているんだ。そもそも今日は大事な会議を行うと伝えたはずだぞ!」

ダンッと膝置きを叩き、また短く溜め息を吐けば側に控えていた紫岐が遠慮がちに笑った。
笑われた事により更に苛立ちが増すソルだったが紫岐に苛立っても仕方の無い事だと自分自身に言い聞かせ堪えた。

「ソル様。そんなに瑠祇が御心配なら様子を見に行かれてはいかがですか?」

「何故私が……」

紫岐は少なからず、人の表情でその者が今何を考え思っているのか読み取る事が出来る。
感情を読み取られたと悟ったソルは素早く紫岐から顔を背けたが既に遅かった。

「心配なのでしょ?五日も瑠祇は食事をとっていませんし」

「……」

チラリと近くに置いてある大きな時計台を見れば針は九時を指し示している。 十時から最高権力者二名を招いた大事な会議が行われる。創造神が死んだ今、これからこの世界を導いて行くのは創造神の娘でありこの世界を照す太陽神のソルだろう。そしてそれを補佐するのはソルの一番の従者である瑠祇。
その瑠祇がいなくては会議は始められない。

「仕方ない。少し様子を見てこよう。何かあったら知らせてくれ」

玉座から立ち上がり、瑠祇の部屋へと向かおうとすれば赤い髪を上で束ね、簪を一本刺している長身の女性─烈妃─がニコニコしながらソルに何か差し出した。
見ればそれは肉を多く使った料理であった。ソルはそこまで肉が好きと言うわけでも、嫌いでもない。しかし、この料理には肉がふんだんに使われている。

「何だこれは?」

「決まってるじゃないか。瑠祇にだよ。あの子本当に五日間何も食べてないんだ。アンタが持って行ったら食べるかもしれないじゃないか。だからこの料理を瑠祇に持って行ってくれないかい?」

「お前たちは元から私を瑠祇の元へ…」

「はいはい気にしないで早く料理を持って行ってやってくれよ。アタシたちじゃあの子は手に負えなくてねぇ〜」

右手には料理、左手には水が入ったグラスを烈妃に強引に渡されれば受け取るしかなかった。
押しが強い烈妃にソルは弱い。それに頼まれた事を断るなんて事をソルには出来なかった。

「わかった。しかし、私が行ったからといって瑠祇が反応を示すかわからないぞ」

「大丈夫だよ。さぁ頼んだよ!」

トンッと軽く押され、大広間から半場無理矢理に出されたソルは渋々瑠祇の部屋へと向かう。
瑠祇の部屋は大広間を出て三階程上がった所にある。

螺旋階段を上ればすぐに瑠祇の部屋へとたどり着く。しかし、問題がある。それは、両手が塞がったこの状態でどうやって扉を開けるかだ。

「瑠祇。私だ扉を開けろ」

中に瑠祇が居るのは分かっている。しかし、いくら呼んでも出て来る気配はない。それどころか、物音一つしなかった。


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