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□この熱は風邪のせい?
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人とは、何とも不思議なもので。
自分自身でも制御しきれない気持ちというものは、確かに存在する。
だから、この胸の高鳴りも、身体の熱さも、一体どうして起こるのか分からない。
風邪のせいなのか、それとも…。


この熱は風邪のせい?


次第に雲が立ち込め始めた空からは青は消え、空を覆い尽くす雲は太陽の姿を完全に隠してしまっている。
まるで、今にも泣き出しそうな空だ。

此処は、世界のほぼ中心にある都市──シンバルク。
人口が他の街に比べ多いのもあって、街は常に大勢の人々で賑わっている。

街の中央には街を治めている城があり、此処には街の最高権力者やその部下などが暮らしている。
そしてシンバルクの東西南北にはこの街を守る為、それぞれ門が設置され常に厳重な警備がなされている。

城には中庭があるのだが、此処は花畑やオープンテラスがあったりと、開放的で落ち着いた空間になっている。
何気なく訪れては日々の激務の息抜きをする者も、少なくは無い。

そんな中庭に置かれた椅子に座り、1人読書に耽る人影が一つ。
青紫色の長い髪を三つ編みにした、龍のような耳を生やした青年だ。
彼の名を、瑠祇という。

瑠祇は暫く手にした本に目を通していたのだが、すぐに集中力が切れてしまったのか眉間に皺を寄せながら肺の奥に溜まった息を吐き出す。
これ以上読書をしても気が散るばかりと判断したのか、瑠祇は本を閉じてテーブルの上に置いた。
そして再び、深々と吐く溜め息。

「何故だ…我とした事が、読書さえ中断せざるを得ぬ程集中力が持たぬとは…」

自己嫌悪するかのように頭を抱え、ぼやいた言葉は誰に聞かれる事無く空間に溶けていく。
本来なら自らの使命である東のゲートの警備にあたっている筈なのだが、現在は他の者に任せこうして休暇を取っている所なのだ。
真面目な瑠祇は普段ほとんど他人に警備を任せる事は無いのだが、今回任せているのには理由がある。

それは、最近集中力がすぐに切れてしまうからだ。
…というより、雑念が頭に入ってきて頭の中を支配してしまうのだ。
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