虚空の桜(長編)

□第一幕 宿命
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天下統一を成した豊臣秀吉が没してから早一年半が経とうとしていた。そんな中、次の天下を狙う東の大大名─徳川家康の行動が日に日にも増して不信なものへと変わりつつあった。その家康に嫌悪感を抱いているのがいた石田三成だ。

「左近…。私はどうすれば良い……。近頃家康の動きが怪しい。あいつの事だ、次の天下を狙ってくるだろう」

近江の佐和山城自室で三成は、己の家臣である島左近に己の心情を打ち明ける。

「は?いきなり何です?殿が弱音を吐くなんてらしくないですねぇ」

「左近。私は冗談で言っている訳ではない!私は真剣なんだ!」

三成が真剣で悩んでいるにも関わらず、冗談混じりでからかって来る左近に三成は少しばかり腹を立てる。
だが、左近の言う通り、自分がこのように悩みを打ち明けるなどらしくないのかもしれない。

「まぁ、殿の焦る気持ちも分かりますが……。焦ったところで事態は変わりませんよ」

「わかっている!だが…この状況でどう焦らずにいろと言うのだ!!今や豊臣の天下は狸へと傾きつつあるのだぞ!」

拳を握り締め、ダンッと正座していた己の足へと拳を振り下ろす。
痛さなど感じなかった。ただ己の不甲斐なさに苛立ちが増すばかりだった。

「殿。今のアンタが事を起こした所で誰も付いては来ませんよ“石田三成”にはね…」

「………」

左近に言われたことは図星だ。今まで他人に冷たく接してきたことが今ここで仇となった。親友と呼べる者はほとんどいない。今までそれが苦だと思ったことなどなかった。しかし、もし自分が戦を起こせば己には誰が付いて来るというのか……。

「すまぬ左近。少し独りになりたい…」

「そうですか。まっ、変な気を起こさないことですな」

戸を開け、三成の室を後にした左近はやれやれといった風に少し溜め息を吐きながら廊下を歩くのだった。
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