捧げもの
□悪役の災難
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「顔色が悪い様だが、大丈夫か?」
顔色が悪いのは元からであり、更に今は彼奴から逃げているため余計に悪い。正直言って話し掛けないで欲しい。
目の前にいるのは自分とは正反対な色の髪色、衣装を身に纏った女性だ。一言で表せば真っ白。何色にも染まっていない髪色を見ていると心がざわめく。遠い記憶の中、過去に自分が犯した罪の記憶が甦りそうだ。
「お前は見た目からして悪役か魔王だな?もしや息を切らしているのは罪を犯したが為逃げているのか?」
「何を馬鹿な事を言って……」
『ニャ!ワカメはっけーん』
悪役の頭上にいきなり黒猫が飛び掛かってきた。いきなりの出来事だったが、悪役はあまり驚きもせず、自分の頭に乗っかっている黒猫の首根っこを摘まみ上げる。
『あのさぁ?猫の首根っこの皮膚って痛くないと思って掴んでるんだと思うんだけど、これって意外と腹立つんだよね!』
後ろ両足で悪役の顔にネコキックをおみまいすれば、これが意外と痛かったらしく悪役は片手で顔を押さえ悶える。一方の黒猫は悪役の手から逃れると白髪の女性の側に寄り添い一声鳴く。
「何がニャーだ、ラウラ。見ろ魔王ぽい悪役みたいな顔色の悪い男が踞っているではないか!」
『ソル、せめて呼び名魔王か悪役、顔色の悪い男のどれか一つにしてくんない?長いから』
「うむ。では悪魔顔でいこう」
「待て!私の名は悪役だ。悪魔顔ではない」
勝手に呼び名を決められそうになり、慌てて止める。自分の名は当の昔に忘れてしまったが、ここでの自分の名は《悪役》だ。断じて魔王ではないし、悪魔顔でもない。
「……自分で悪役と名乗るのは痛々しいな。何だか可哀想な子だ」
『おまけに髪がワカメだし。ま、不味そうなワカメだけど』
言いたい放題言われているが、ここでいちいち突っ込んでいてはきりがない。
悪役は一匹と一人に背を向けその場を去ろうとするが、自慢の黒髪を掴まれそれは叶わなかった。忌々しく後ろを振り返ればそこに居たのは今、自分が一番恐れている者。
「やっと捕まえたわよ〜。さぁ、アタシの作った新作の衣装を着てみてちょうだい!」