捧げもの
□新たなる旅路
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人間から受けた傷を癒すため、紅は死んだように眠っていた。本来なら多少の傷なら休めさえすれば直ぐに癒えてしまうのだが、日々の奴隷としての過酷な労働、ましてや拷問の傷のせいで傷は癒えるどころか増える一方であった。
紅にとって今は貴重な時間なのだ、しかしそんな彼の貴重な時間も直ぐに終わりを告げる。
外が騒がしい。今まで自分を拷問してきた人間の怒号や悲鳴の声が聞こえてくる。だが、自分には関係ない。
紅は外での騒ぎを気にも止めず、瞳を閉じたままだ。しかし時折外で聞こえてくる懐かしい声、そして自分が囚われている牢に近付いてくる足音に紅は瞳をゆっくりと開いた。
「……朱菜…」
目の前には忘れもしない幼馴染み──朱菜がいた。瞳に涙を溜めて喜びの笑顔を紅にむけていた。
「やっと……見つけた!」
「どうしてお前がここに…。早く逃げろ!人間に見付かったらお前まで……」
朱菜に早く逃げるよう説得するが、朱菜は逃げようとはしない。
早くしないと人間が来る。紅は必死で叫ぶが、朱菜は首を横に振るだけだ。
「大丈夫だから。待っててもう少しで……」
「…朱菜さん。紅さんは無事でしたか?」
そこに現れたのはこの場に似つかわしくない美少年だった。彼は走って来たのか息急き切っていた。
だが、今の紅にとって見知らぬ者は全て敵だ。紅は少年に敵意の眼差しを向けるが、少年は気にも止めずに刀を抜き出し牢の柵を切り裂き、続いて紅の戒めである鎖を切り裂いた。
「さあ、早くにげましょう。人間たちは式神で足止めしています!」
少年は紅に手のひらを差し出す。紅は手を掴むのを躊躇ったが、やがてその手を掴んだ。
久し振りに感じた体温はとても温かく、手のひらから全身を温かく包み込んだ。
新たなる旅路
(僕の名前は白菊丸と言います。白菊と呼んでください)
(白菊……。この恩忘れはしない。ありがとう)