小説

□第一章
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バタンと自分の身体を床に叩きつける音と共に瑠祇は意識を失った。

「瑠祇!?オイ!しっかりしろ瑠祇!!」

心配したソルが倒れた瑠祇の身体を揺すれば瑠祇からは苦し気な声が漏れる。

「困ったな。ベッドに瑠祇を寝かせたいが……」

女独りで大の男をベッドに寝かせるのは一苦労だ。
誰かを呼びに行きたいが、瑠祇をこのまま放って置くのは心配であり、また、気が引ける。
どうすれば良いか分からずあたふたしていれば誰かが来る足音が聞こえて来た。

「ソル?瑠祇の様子はどうやぁ?」

「白羅か!丁度良いところに来た。瑠祇が倒れた、ベッドに運んでくれ!」

瑠祇が倒れたと聞いた時は一瞬自分の耳を疑ったが、ソルの焦りようからして本当だろう。

「え、あ分かった」

白羅は部屋の電気を点けると、ベッドの傍らで倒れいる瑠祇を軽々抱えベッドに寝かした。
抱えた時、あまりの瑠祇の軽さに驚いたが数日間何も食べていないのだ。体重も激減しているのだろう。

「何や瑠祇の顔色悪いなぁ?」

「多分、数日間何も食べていないのが祟ったんだろ……。馬鹿だな…」

「まあまあ。それより瑠祇を医者に見せた方がええんとちゃう?」

「そうだな……。そろそろ私は会議の時間だ。後は頼んで良いか?」

「任せとき!」

瑠祇の事は心配だが、何より今は会議が先決だった。
ソルは振り返る事なく瑠祇の部屋を後にした。





会議が行われる部屋ではすでに二人の最高権力者が着席していた。
一人はシロミヤ最高権力者の白玻鐘。そしてもう一人はマルカディウス最高権力者のヴェルハント。

白玻鐘は腕を組み、静かに瞳を閉じている。それに比べヴェルハントはこの部屋の警備を任されている十六夜に手当たり次第口説いている。

「美しい。貴公の美しさはこの世界の芸術だ」

「え、あの……」

「貴公に出会ったのも何かの縁。名を教えてはくれないだろうか?」

ヴェルハントに片手を握られどうすることも出来ない十六夜は、ただヴェルハントの言葉を聞く事しか出来なかった。
この時程自分の顔に嫌気がさしたのは初めてだろう。

「あのヴェルハント様。私は男ですので……」

「ん?何、気にすることはない。我輩は美人にしか興味がないんでな」

「いえ、そうではなくて…私は今任務中ですのでこの様な事をされると困るのですが…っ!?」

突然ヴェルハントは十六夜の顎をクイッと持ち上げ顔を近付ける。
こんなところを誰かに見られたりでもすればますます女顔だとからかわれる。
十六夜はなんとか空いている片手でヴェルハントを引き剥がそうとするが身長190センチのヴェルハントに叶うはずもなく、顔と顔との距離がゆっくりと縮まっていく。
何が嬉しくてこんな仕打ちをされなければならないのかと心のなかで悪態を吐く十六夜だったが、段々と今自分が置かれている状況に恐怖心を抱き始めた。

「その顔も中々そそるでないか」

「やめろヴェルハント。ワシの島出身の十六夜に手を出すな」

先程まで静かに瞳を閉じていた白玻鐘がゆっくりと瞳を開き、ヴェルハントを睨む。
白玻鐘の制止に渋々十六夜を離すヴェルハントだが、その表情はどこか楽しそうだった。

「まったく…だからお前には嫁が出来んのだ」

「大きなお世話だ白玻鐘殿。それに我輩は嫁が出来ないのではない。作らないのだ」

「ハハハ、面白い。なら作ろと思えば作れるんだろうな?」

互いに火花を散らし睨み合う白玻鐘とヴェルハントに十六夜はただ見ている事しか出来なかった。
しかし、シンバルク騎士団隊長としてここは何とか場をおさめないといけないという使命感が十六夜にはあった。
だが、この二人を止める勇気が十六夜にはなかった。
しかしそんな時、誰かが扉を開いて入ってきた。

「ヴェルリッツ。何をしている!」

「さかずき。何処に行っておったのだ心配フゴッ!?」

ヴェルハントは漆黒の美しい髪をした女性─さかずき─を抱き締めようと駆け寄った。だがさかずきは意図も簡単にヴェルハントに裏拳をお見舞いする。


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