テキスト

□対戦
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一方、そんな2人の攻防を少し離れた所
から固唾を飲んで見守るのは緋影とユラ
ハだ。

「ふーん…師匠があんな楽しそうに戦っ
てるのを見るの、初めてかも」

「へぇ〜、そうなんですか?」

「師匠は元々、強い相手と手合せするの
は好きみたいですしね。……師匠の癖に
、なかなかやるじゃないですか」

「え、いやいや師匠の癖にってそんな…
! 玉泉さんが聞いたら怒られるんじゃ
ないですか?」

「そう? いつもこんな感じだけど」

全く衰える事を知らない緋影のマシンガ
ントークに目を丸くしつつ、すかさず突
っ込みを入れるユラハ。
しかし、緋影と言えばしれっとした顔つ
きで、何がそんなに不味い事なのか、と
悪びれる様子は微塵も無い。

「あたしのお師匠さま、普段は人使い荒
いし鬼だし悪魔だしスパルタだし優しさ
の欠片も無いけど、実力だけは本物なん
ですよ〜」

「それを言うなら、俺の師匠だって同じ
だよ。普段はふらふらしてて頼りなさそ
うですけど、いざ本気を出したら右に出
る者はいませんよ」

「…何だ、緋影さんてば何だかんだ言っ
て玉泉さんの事尊敬してるんですね。で
も…勝つのはうちのお師匠さまですっ!


「それはこっちの台詞なんですけど。俺
の師匠が勝つに決まってるじゃないです
か」

初めは師匠に対する日々の不満をぶつけ
ているようにしか聞こえなかったものの
、何時の間にやら自分の師匠自慢に発展
し、どちらも譲るつもりは無く2人の間
にバチバチと火花が散る。
師匠に悪態をついたり不満を漏らしても
、結局は師匠の事を心から慕っているの
だろう。

「……あいつら、好き勝手言っているよ
うだが…」

「誉められているのか貶されているのか
、微妙あるね…」

そんな弟子2人のやり取りを遠巻きに傍
観しつつ、呆れ果てたような溜め息を零
しながら突っ込みを入れるのは玉泉とル
ゼリオだ。
どうやら、この時ばかりは2人の意見も
合致したらしい。

さて…と気を取り直し、再び視線をぶつ
け合う玉泉とルゼリオ。
先制攻撃に出たのはルゼリオであった。

早口で呪文を詠唱して片手を翳せば、手
のひらから無数の光り輝く矢が放たれる

一方の玉泉は瞬時に表情を険しいものに
変えると、矢の軌道を読んで軽やかな足
取りで躱していった。
だが、これではルゼリオと一定の距離を
保ち続けたままでなかなか間合いに踏み
込めず。

おそらくは、ルゼリオはそれを狙って遠
距離用の魔術を発動させたのだろう。
自分の得意な戦い方に持ち込む──それ
は戦いにおいては常套手段である。

だが、玉泉の顔には焦りどころか何処と
なく余裕にも似た色を映し出す。
その不気味なまでの余裕にルゼリオも気
づいたらしく警戒心を強くするのとほぼ
同時に、それは訪れた。

突如、玉泉の頭上に浮かび上がる無数の
刃。
それはまるで意志を持っているかのよう
に自由自在に宙を切り裂けば、一直線に
ルゼリオに向かってゆく。

「くっ…!?」

予想だにしていなかった攻撃に一瞬怯み
つつ、それでも刃の軌道を先読みして紙
一重の所で回避する。
時折反応が遅れ身体を掠めてゆく刃はあ
るものの、僅かに血が滲むだけで浅い傷
である事は明白、ルゼリオ自身も特に気
に留める様子も無く。

「私が接近戦しか出来ないと思ったら、
大間違いあるよ。戦いでは、先入観を捨
てないと痛い目に逢うある」

「そんな隠し玉があるとはな…成程、一
枚岩では無いという訳か…面白い」

互いに睨み合い、どちらも一歩も譲るつ
もりはないようだ。
次いで駆け出したのは玉泉、ルゼリオが
先程の攻撃で多少なりとも疲弊している
事を見越し、追撃するならば今が最大の
好機と踏んだのだろう。
事実、玉泉の読み通り体力に不安のある
ルゼリオは足元が若干覚束無く、玉泉の
動きについていけるかは怪しい所だ。

玉泉の回り蹴りが空を切り裂く。
何とか直撃は免れたようだが、それでも
ルゼリオは劣勢を強いられるばかり。

暫く玉泉の一方的な追撃が続いていたが
、何とか攻撃を凌ぎ切ったルゼリオがよ
うやく反撃に出る。
ルゼリオが呪文の詠唱をした事に気付い
た玉泉が魔術に備えて神経を尖らせると
同時に、それは起こった。

玉泉の足元から不気味が光が放たれたか
と思えば、そこから幾つもの蔦が一斉に
伸びて彼に襲い掛かる。
拘束の魔術であろう事を瞬時に察知した
玉泉は再び頭上に刃を生み出し、迫り来
る蔦を次々一刀両断していった。

おそらくは蔦を絡まらせて動きを封じよ
うと考えたのだろうが、自分とてそう簡
単には相手の思い通りにはさせない──
そんな事を心の中で呟く玉泉。
蔦を全て斬り裂いた所でルゼリオを一瞥
する玉泉であったが、後に彼は自分の行
動を後悔する事となる。
ルゼリオの手のひらで踊らされていた事
に──…
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