Sweets Collection

□メガネ
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学年も違い、同じ部活をしているわけでもない二人が校内で一緒にいるのはおかしいと言うのだ。
その感覚は分からないでもないが、塚佐にしてみれば面白いものではない。
「同じ店でバイト」という関係では、顔を合わせる理由にならないのだろうか。
もちろん学校なのだから塚佐は京野のことを「先輩」と呼んでいる。

「でもしょうがないかな。理留さんってああいう性分だし」

普段京野は細いシルバーフレームの眼鏡をかけていて、とても甘い雰囲気など期待できないツンだった。
本当に隙を見せないというのか、気軽に声もかけられない。

しかし、最近デレの発動率も高くなったよな、と塚佐は感じている。
特に眼鏡を外し、フリルの多いふわふわした女の子の服に着替えれば、外見の様相が影響するのかツンとデレの比率が逆転する愛しのマイハニーだ。

言ってみれば心通じ合った二人が一緒にいるのだから、恋人が甘い空気を出すのは当たり前かもしれないけれど。

その京野は受験生。
秋も深くなってきたこの頃は、アンジェリカでのバイトの時間が二人の貴重な逢瀬だった。
仕事中に不謹慎な、と叱られそうではあるが、京野に塾がある日は、店で過ごすのはほんの一時間ほどしかない。

できるなら毎日二十四時間、互いの体温を感じられるほど一緒にいてベタベタとラブラブに過ごしたい。
だが今は仕方がないことだ。
受験が何より優先事項。
勉強に専念したいからと別れ話を持ち出されでもしたら、もうきっと自分はこの先の人生耐えられない。
それほど好きだ。好きで好きで堪らない。

「はあああ、着いたあ」

アンジェリカの店先で塚佐は大きく深呼吸をした。
自分の足で急げるところは、ずっと早足か駆け足をしてきた。

これも愛。
少しでも早く京野に会いたいという、少しでも長く会っていたいという――オレって健気、とこっそり自分を塚佐は称えた。

裏口から入り、続く奥のスタッフルームで店の制服であるコックコートに着替える。
まずは厨房にいるはずの店主の信川に挨拶しようと部屋を出て行きかけた塚佐だったが、ふと見渡した視線の先に、事務机の上にあったメガネに気づいた。

誰の、など考えるまでもなく、アンジェリカでメガネをかけるのはただ一人。
見覚えがあるそれは京野のものだ。

 
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