Sweets Collection

□マロン
4ページ/4ページ


「中津川の懇意にしているお店から、靖和さんが取り寄せてくれたんだ。日持ちしないから、数は沢山ないけど」

そう言って京野は本当に嬉しそうに笑う。

「そっか、信川さんが」
「うん、秋はこれだよね」

栗きんとんに敗北。

だが栗きんとんなら仕方がないではないか?
国産栗を使ったものは年間を通して、この時期しか出回らないと聞く。
ほとんど毎日顔を合わせる自分とは違う。

イヤ待て。
そもそも、比べていいレベルなのだろうか?
洋菓子のみならず和菓子もいける京野は、栗きんとんは当然ながら、栗蒸し羊羹も栗鹿子も好物に違いない。
しかしそれらと同じ「好き」でいいのか?

(それはちょっとツライかも……)

「塚佐、どうかした?」

いけない、顔に出てしまったらしい。

「何でもない。ミチルさんこそ、何やってたの?」

聞くまでもなく、見れば分かったけれど。

「うん、塚佐が来たら作ってもらおうと思って、イメージ描いてたんだ。栗きんとんのロールケーキだよ」
「へえ、丸ごと栗きんとんが入ってるんだ」

京野が描いていたイラストを覗き込んだ塚佐は、恋人のために秋の味覚をふんだんに使ったケーキのレシピを考え始めた。
スポンジ生地でたっぷりの生クリームと栗きんとんを巻き込んだロールケーキ。

「よし、飛び切りに美味しいのを作るよ」
「うん。期待してるからね」
「ミチルさん……」

満面の笑顔で言われ、凹んだ気持ちが浮上してくる。
単純なものだ。
だが少なくともこの言葉は自分に向けられたものだ。
恋する悩みは尽きないが、今日のところはこれでまあいいかと思おう。
だってこれは、自分にしかできない、恋人をもっと笑顔する方法なのだから。
 
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ