Sweets Collection

□マロン
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塚佐は、卵を握り潰していた京野を脳裏に浮かべた。
黄身と白身でベタベタにした手を後ろに隠したときのバツが悪そうな顔といったら、もう何といえばいいのか分からないほど可愛かった。
それに――。

あのとき体験したのは、京野の不器用さを目の当たりにしただけではなかった。
妄想癖は自覚しているが、まったくこうも自制心が飛びやすいなどとは思ってもいなかった。

アーモンドの粉を周囲に飛ばし、情けなさそうに自分を見る京野は、普段のツンとした気の強さは影を潜めて、さくらんぼのような唇を震わせていた。

だからつい自我のコントロールを失ってしまったのだ。
その唇に吸い寄せられ自分のを重ねた。
ファーストキスだった。
初めてのチュウ。

京野の唇は甘くて、コーヒーぜんざいに入っていた白玉団子のようにもちもちしていた。

そして当たり前のように頬を叩かれ、我に返ったときは既に遅く、真っ赤になった京野に睨みつけられていた。

思えば、塚佐が自分の中にあるキレイごとで済まされないドロドロした欲を知った瞬間だった。

それまで京野を好きだという自覚はあった。
だがしかし、どれだけ京野が少女と見まごうばかりの扮装をしていても男同士だし、プラトニック以外の何ものではないと思っていたのだ。
だから押し倒したいだとか、早い話Hしたいなどと、考えていなかった。

本当に京野を傷つけようとするすべてから、守りたいと思っていたのに、なのに自分が傷つけてしまった。

塚佐自身、それがショックで悶々と眠れない夜を過ごした。
もう会ってはいけないと、一度は諦めようとした。
けれど意識した恋心は簡単にはいかなかった。

そばにいればきっと抱える欲は際限なく大きくなっていく。
京野のすべてが欲しくて我慢できなくなると、一生分かと思うほど悩んだ。
何より傷つけたくない。

今なら何てウブだったんだと、苦笑いするしかない。

あのとき京野に対して距離を置いたことが怪我の功名か、却って自分の存在を意識させたらしい。
あとから聞いた話だった。
 
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