Sweets Collection
□アラカルト(後編)
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「姉さん、荷物ありがとう。受け取ったよ」
アンジェリカの元事務室だった部屋で理留は、姉、聖佳に宅配を受け取ったと電話をしていた。
『どういたしまして。で、何だったの? スタイリストの大島さんからあんた宛に送って欲しいって頼まれた荷物は』
「うん、ちょっとね。今度見せるよ」
中身を話すのは、女装を理解してくれている姉とはいえ少々気まずさを覚えて、濁した言い方になった。
『まあ彼女は信頼できる子だし。そうそう加地からまたモデルの話来てるんだけど、あんたどうする?』
「モデルって……もういいよ。恥ずかしいから」
きれいな服を着てメイクをしてもらうのはいいが、やはりカメラを前にして笑顔を作らねばならないのは、特別レッスンなどしていない理留には難しい。
『そうねえ。使ってみたいっていう加地の気持ちも分かるけど、姉としたら複雑だしなあ。理留は大事に箱の中にしまっておきたい』
まったく姉バカ。
弟にそんなことを言ってどうする。
そういえば塚佐も似たようなことを言っていたな、と思い出す。
「じゃ、電話切るね。たまには家顔出してよ。母さんが寂しがってる」
『そう言うあんただって家出たくせに。はいはい、今度彼と実家孝行してきますって』
軽口を叩き合って、電話を終えた。
「そっか、にいさんと行くのか。まあ夫婦なんだし当たり前か」
いつか両親に塚佐を紹介する日が来るのだろうか。
そのときは自分の大切な人だときちんと話したいと思うが、常識の塊の親の前に同性の恋人を連れていくのはハードルも高い。
「さてと。大島さんにお礼のメールしとかなきゃ」
黒のローファ。
紺のハイソックス。
タータンチェックのスカート、白のブラウスにサテンのリボンタイ。そしてベージュ色のカーディガン。
手には紺のナイロン製のスクールバッグ。
真ん中にはちょっとお茶目にブランド名の校章のようなエンブレム入りだ。
「サイズぴったりだ。ありがとう、大島さん」
鬘をつけて、一緒に入っていたチェックのカチューシャをはめる。
鏡に映る姿はとても大学生には見えない。
単品で見ればどれもよくあるアイテムが、ひとたびまとまりコーディネートされると、なんちゃってJK。
メイクはイメージに合わせてナチュラルにする。
ツケまつ毛は使わずに、ブラッシュだけで仕上げた。
「こういう格好初めてしたけど、案外いける? スカート丈が絶妙だ」
短すぎもせず、長くもなく。
理留の足をきれいに見せる丈は、さすがに本職のスタイリストが選んだアイテムだ。
「じゃあ、ちょっとお出かけしますか。母校に」
くふっと鏡の中の少女がいたずらっぽく笑みを浮かべた。