Sweets Collection

□アラカルト(後編)
3ページ/8ページ

話をしているうちに、降りる駅についた。
駅を利用している人の流れのまま、二人は改札を抜け地上に出る。
上空はすっかり薄暗くなり、西の空に少し赤みを残しているだけだった。

ここからアンジェリカまでしばらく歩く。
車の多い幹線道路を避け、通り近くを流れる川のどて道を行くことにした。
遊歩道と整備され、等間隔に据えられた街路灯がぼんやり道を浮かび上がらせている。

そういえばまだ塚佐とつき合い始める前、義兄に遣いを頼まれてこの道を一緒に歩いたこともあったと思い出す。

「この道、久しぶりだ」

塚佐も覚えていたようだ。
季節は違うが、確か同じように夕日が沈んでいく束の間のひとときだった。

そんな黄昏どきに感傷的になったのか知らないが、気まぐれを起こして理留は塚佐に聞かれるまま、女装するようになったきっかけやこうして開き直れるようになるまでの葛藤を話した。
今にして思えば、理解者である姉夫婦以外の誰かに心のうちを聞いて欲しかったのだろう。
いや、塚佐に聞いて欲しかったのだと思う。
塚佐は理留の秘密を知った最初から、こんな自分をバカにしたり気持ち悪がったりしなかったから。

「今だから言うけど、あのとき理留から話聞いて、ああ、この人なんだって思った」

まだ一年も経っていないのに、懐かしそうに塚佐が話し出した。

「この人?」
「うん、オレの好きな人。守りたいって、笑顔にしたいって思う一番の人。今も同じだけど」
「塚佐……」

どうしてこういうことをさらりと口にしてしまえるのだ。
きゅっと胸が締めつけられる。
久々に乙女モードの発動か。

いろいろ妄想激しい塚佐は、幸か不幸か割りに思っていることが顔に出てしまう性分で、見ていると何を考えているのか、おおよその想像はついてしまう。

だから今言ったことは、本気で思っているのだ。

それは自分も同じで。
むしろもっと強くなって、好きだと心から溢れてくる。

高校を卒業し、先に新しい世界に踏み出したのは自分なのに。
去年までのように会えない寂しさからか、取り残されたように感じてしまっていた。
こんなにも確かな気持ちがあるというのに。
塚佐の周囲にいる人に勝手にむかついてヤキモチ焼いて。

バカみたいだ。

「塚佐、ごめん」
「え、な、何? 急に何なの?」

いきなり謝った理留に塚佐が驚いた声を上げた。

「どうしてそんなに驚くんだよ」
「だって理留が謝るなんてさ。機嫌悪かったの、悪かったって?」
「知るかっ! お前の態度やっぱりむかつくっ!」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ