Sweets Collection
□アラカルト(後編)
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「あれって、雑誌か何かの撮影だったんだよね?」
「うん」
「どうして理留がって思ったけど、それって聖佳さん絡み?」
「うん」
姉の聖佳が出版社に勤めているのは塚佐も知っており、その辺の想像力はあるようだ。
何というか塚佐は、想像力にかけてはあらぬ方向なら任せろというほど逞しい思考を繰り広げるが。
「さっきは『そう』で、今度は『うん』? こういうとこ分かりやすいよな、理留って」
口数が減ると言いたいらしい。
だが言われ様に少しカチンときた。
これならどうだ、と一気に経緯をしゃべってやる。
「姉さんに頼まれたの。現場でモデルが揉めて撮影が続けられないからやってくれって。何でもさ、店が取材OKにした理由がケーキ完食だって言うし。だからぼくは午後の講義を自主休講にして引き受けたってわけ。こっちも初めてのことだし、勝手分からないし、言われるままやってたら、お前がいて。それだけだけど?」
随分要約したが間違ってはいない。
これのどこに塚佐が機嫌悪くなる要因があるのだ。
それとも、自分には関係ないことで、八つ当たりされているのか。
「……オレさ、外で理留の写真撮り始めたくらいからあそこにいたんだけど――ねえ、あの人、誰?」
「あの人って?」
誰のことを気にしているのだ。
「ああもう。コックコート着て、理留と並んで写真撮られてた人」
「ああ、杵原さんか。あのパティスリー・メルモのオーナーシェフだよ」
「そう、あの人がメルモの」
塚佐が何か考え込むように黙った。
杵原さんのことを気にしていたのか。
塚佐もパティシエになると決めて、将来自分のパティスリーを持つことを目標にしているから、その道で成功している人を羨ましいと意識しているのかもしれないけれど。
「別に杵原さんを気にすることないんじゃない? お前だってパティシエになって店持つんだろ?」
そう言うと、塚佐は「えっ」と、目を瞬かせた。
「理留――。まあ、そうなんだけどなあ」
塚佐が大仰に溜め息をついた。
「理留って、ホント鈍いから」
「何だよ」
前にも似たようなことを言われた気がするが、鈍いと言われて嬉しいはずがない。
つい眉を寄せ、塚佐を睨む。
そんな理留に塚佐が苦笑した。