Sweets Collection

□アラカルト(前編)
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必要ならタクシー使ってもいいと送られてきたメールに添えられていたが、理留は地下鉄を使った。
繁華街だ。
どうせ渋滞で車など身動きできなくなるのが目に見えている。
なら三分に一本来る地下鉄のほうが、確実だ。

こうして聖佳との電話から三十分ほどで撮影現場に着いた理留は、教えてもらった加地の番号に電話をかける。

電話の相手、ティーンズ誌の編集だという加地はすぐに現れた。
黒縁メガネに邪魔にならないように髪を束ね、いかにも仕事ができる女性という感じだった。

「あなたがミチルちゃん? あっと、くん?」

くん、と呼ばれるのも致し方ない。
今の理留の格好は、ブラックデニムにコットンセーターと、どこにでもいるような男子学生ファッションだ。

「聖佳はぼくのこと何て?」

理留は加地に尋ねる。
女装が趣味の実の弟の話は姉の仕事関係でどこまでOKなのか分からず、少し探るような聞き方になった。

「飛び切り打ってつけの子を寄越すって連絡あったわ。まだ学生だから、身元さえ分からないようにしてくれたら好きにしていいって。あ、あたし京野さんの後輩になるの」

姉を仕事での通称である旧姓で呼んだ加地が、待機していたスタイリストに指示を出す。

「盛り気味にメイク頼むね。あなたを全面信頼してるから。服は用意してあるものでいけるから」

スタイリストが頷いていた。
その辺はもう打ち合わせ済らしい。

パティスリー・メルモの店舗から少し離れた場所に止められてあった大型のワゴン車に連れて行かれた理留は、あとはスタイリストのなされるままだった。

「きれいな肌ね。メイクのノリもいいわ」
「ありがとうございます」
「この服着てね。胸はこれつめて。喉仏はあまり目立ってないけど、一応スカーフしておこうか」
「はい」

撮影用に用意されていた服は、流行りのチュニックブラウスに小花模様のマキシ丈テイアードスカート。
それにミニボレロをはおる。足元はここ数年流行っているグラディエーター風のウエッジサンダル。

「よし、完璧。これなら正体大丈夫ね」

さすがプロだ。理留も鏡に映る自分の姿に驚いた。普段自分がするメイクの比ではない。

できばえに満足してスタイリストは車の外で待っていた加地に声をかける。

「OKよ。さすが京野さんが手配しただけのことはあるわ」

トップに軽く逆毛を立てボリュームを持たせて、ゆるくふわっと巻いた鬘をつけ、ピンク系を主体に施した目元を強調するメイク。
腰位置で太めのベルトを締め、ブラウスをブラウジングさせたコーデは体の線を強調することなく、理留を少女に見せていた。
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