Sweets Collection

□マロン
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放課後、いつものようにケーキショップ・アンジェリカにアルバイトに来た塚佐は、学ランを脱ぎエプロンを着けると厨房を覗いた。
そこにいたのは店長信川ではなく、店の制服に着替えた京野だった。

作業台に向かい戸口を背にしているため京野の表情は分からない。
右手を動かしているから、仕事に入る前のスイーツタイムなのかと思った。

だがよく見れば、持っているのはフォークではなく色鉛筆。
ときおり小首を傾げ考え込む仕草もみせる。

ケーキショップの厨房で色鉛筆など、考えるまでもなく不要なモノだ。
ならば何か新作ケーキを考えているのかもしれない。今日もおそらくそうなのだろう。

京野はときどき、これまで食べ歩いた数多のスイーツを参考にして、オリジナルのケーキを考える。
コンセプトは「今食べたいケーキ」だ。

(じゃあ、何描いているか教えてもらわないとね)

京野が考えたケーキを実際に作るのは、自分の役目だと塚佐は思っている。
技術がまだまだ追いつかないが、何といっても京野の理想の恋人像は、大好きなスイーツを作ってくれる人だ。
だったら自分が作らないでどうするのだ。

それに京野が菓子作りをもし始めたら、ここにある道具のいくつかが使いものにならなくなるのは間違いない。
道具だけではなく、スイーツそのものも完成品から遠く離れた物体と化すだろう。

塚佐は以前身を持って体験したことを心のうちで苦笑混じりに思い出す。

天は二物を与えず、とはよくいったものでスイーツに関してある種の神のような味覚と知識を持っている京野でも、自ら作り上げる腕は持っていなかった。

(ったく不器用なんだから。第一卵が割れないなんてさ、外見のクールさを裏切るギャップ萌えだよね)
 
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