Sweets Collection

□アラカルト(後編)
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「今日さ、ケーキ焼きたいっていうクラスの女子に頼まれてさ、ハンズで買い物につき合ったんだ」

やはりそのとおりで、塚佐は理留が訊ねる前に話し出す。

「……そう」

ハンズが入っている商業ビルはメルモと道路を挟んだ向かい側にある。

きっとそれ以上のことはない。
そういう買い物を女子から頼まれてしまう塚佐も塚佐だが、男女隔てなく人がいいのは分かっていることだ。

「でさ、買い物のあとどこか店に入るかっていうことで、彼女、保科っていうんだけど美味しいケーキの店知ってるっていうから」
「そう」

それがメルモで、塚佐は彼女に誘われるまま来た、と。

地下鉄に乗り込み、ドア近くのバーにつかまれば、同じようにバーに手をやり塚佐が横に立つ。
暗い車窓に二人の姿が映っていた。

つい数ヶ月前は同じような年頃に見えていたはずなのに、何か隔たりを感じるのはどうしてだろう。
たかだが一つしか違わないのに。
今着ている服のせいなのか。

「理留、何か怒ってる?」
「怒ってなんかない」
「でも機嫌は悪そうだ」
「そんなことない」
「オレがあそこに居合わせたせい?」
「違う。塚佐のせいじゃない」

押し問答になり、口をついたのは、機嫌が悪いと認める言葉だった。

「じゃあ何?」
「それは……言わない」

撮影現場で塚佐の横にいた女子にむかついたなんて言えない。
自分は心の狭い人間だとわざわざここで言いたくない。

つまり、もう高校というカテゴリーで塚佐と並べないことに気づいて面白くなかったのだ。
だから当たり前のような顔で隣にいる女子に嫉妬してしまった。

まったく何てつまらないことに引っかかっていたのだ。
いくら学校帰り、制服でデートをしたことがなかったとはいえ、羨ましいなどと思ってしまうなんて。
放課後は毎日のようにアンジェリカで会っていたのに。
第一学校で顔を合わせることを避けていたのはこっちだ。

「理留がさ、機嫌悪いっていうなら。実はオレもだけどな」
「何でお前が?」

いつものように、へらっと笑っている。
それのどこが機嫌悪いと?
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