drama
□幸せは歩いて来ない。
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「決まった?」
「うう〜ん…ぜぇんぜんッ」
「…アンタら……本当に結婚式、やる気あんの?」
「わっかぁんなぁ〜い」
「なにそれ」
結婚式の資料を机にいっぱいに広げ、疲れたぁと私に背を預けるなつみ。
「いっそのことさやかと結婚する?」
なぁんて…なつみの細い身体に腕を回して、冗談混じりにして言ったらなつみはなにそれ〜なんて靨を作って笑った。
「だいたい女の子同士で結婚出来ないじゃん」
「うん。憲法第6条に結婚に男女がって書いてあるね」
「来ました。ちょっと私仕事出来ます発言」
「常識常識」
そんなことウェンディングプランナーじゃなくても知ってるよ。
分かってるよ…痛いほど…
「なつみさ…」
「ん…?」
「私が男だったら…どうしてた?」
なつみの顔を覗き込む。
少しだけ首を傾けて考える素振りを見せた後、なつみは私の頬に触れた。
「…さやか」
「あら、嬉しい」
「フフッ…だってさやかは私を好きだし、裏切らないし、優しいし…何でもやってくれるしね。確かに修二はいい男なんだけど…頭硬すぎるし、優し過ぎるし、真面目過ぎるし……あれ?何の話だっけ?」
「あははッ…途中から修二くんの愚痴になってるよ」
「だよねぇ」
顔を見合わせて2人して笑った。
冗談で言ったのに…
なつみが私を選んだことがちょっとだけ…
ううん、すごく嬉しかった。
「修二はさぁ…私にはもったいない気がしてさぁ…」
「そう?」
「うん…あんないい男いないもん」
でも、やっぱり…
なつみの一番は修二くんな訳ね。
「それは…ノロケ?」
「うん、ノロケ」
「そう」
分かってるけど悲しいな…
私は修二くんにどう足掻いても勝てないんだ。
こんなになつみの側にいるのに……
「さやかはいつ結婚するの?」
「んー…五年後…って思ってたけど…しない」
「なぁんでぇ?五年後に修二よりいい男捕まえて結婚するんじゃないの…?」
「んー…今の仕事まだ続けていたいし、それに…墓場まで持っていきたい秘密があるんだよ」
「墓場まで…?」
「うん。だから…しない。自分の幸せより、人の幸せを見届けることの方が幸せだから……幸せなんてなりくないの」
「そっか」
「うん…」
「じゃあ…その分私が幸せになる」
「なつみが…?」
「うん。だって、私が幸せならさやかも幸せでしょう…?」
その言葉は余りにも私を取り乱して、私の心をぐちゃぐちゃにして…余りにも残酷な言葉だった。
「そうだね…幸せだよ」
私全然気にしてませんみたいなポーカフェイス気取って、下手くそな作り笑い。
あ〜あ…こんなに人の幸せが辛いなんて始めてだ。
男に産まれていれば良かった。
神サマ…残酷だね。
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