AKB48U

□大声ダイヤモンド
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恋愛禁止条例


そんなことはAKBに入る前から、始めから分かってた。



でも、恋するのがいいことなら片思いも駄目って言ってくれた方が良かった。


宙ぶらりんとして中途半端。
まるでさえちゃんと私みたい。


田舎の鹿児島からお母さんと一緒に上京して来て、右も左も分からない世間知らずな私を一番気に掛けてくれたのは…さえちゃんだった。



いつも元気でみんなに優しくて、格好良くて…でも、自分が嫌いで、少しだけ繊細で…





そんなさえちゃんのことを…


私はきっと…出逢った時からずっと、ずっと…気になっていたんだと思う。




それから私はチームBになって、AKB歌劇団をやることになった。


私は運良くダブルキャストのヒロインに選ばれた。



そして、私の相手役は………





さえちゃんだった。



キスのフリをするだけでいいって言われても…

中途半端なものにはしたくない、真剣にやりたいって話して、本当にキスをした。



初めてだった。


さえちゃんが私の初めての相手。



すごく恥ずかしかった…
でも、嬉しかった自分がいる。


「なのになぁ…」


「ん?どしたの、りんちゃん?」


頬杖を付いてボソッと呟くとさえちゃんはジャガリコを口で挟んだまま首を傾げた。


ほんと、男前で格好いいのに…やっぱり女の子らしいとこもあって可愛い…



両思いなのに、片思い。
好き合ってるのに…声を大にして言えない複雑な環境。


好きって言葉はダイヤモンドなんじゃないの?


大好きだよ、さえちゃんが大好き。


大声で大好きだって叫びたいよ…



「ううん…」


「りんちゃん?」


楽屋に2人でパイプ椅子に座りながら、iPodでイヤホンを片方ずつ分けて聴いていた。


曲が言い訳maybeから大声ダイヤモンドに変わる。


「元気ないじゃーん。なしたぁ〜?悪いもん食べた?あ、前髪失敗したとか?もしかしてぇ…さえがなんかした?」


「う〜ん…さえちゃんがなんかした…かなぁ?」


悪いもんってケータリングで同じの食べたじゃん

まゆゆじゃないんだし、そこまで前髪にはこだわらないよ。


さえちゃんおもしろい。



「うわっ、マジで!?ごめん!」


「…ううん」


手を合わせて謝るさえちゃんに私は首を横に振る。


「ごめんねぇ…てか、さえが何したの?」


さえちゃんが付けていた右のイヤホンを外して、私の顔色を窺う。


近いよ、さえちゃん…


そんなに近付かれたらドキドキしちゃう…


「…さえちゃんが格好いいから悪いの」


「はぁ?」


口を歪めて眉をハの字にして目を丸くするさえちゃん。


私は小さく頷いてから、さえちゃんの大きな手を取って、私の胸元に持ってくる。


正しくは心臓のある左胸に…



「り、り、り、りんちゃん!?」


さえちゃんは私の行動に顔を真っ赤にして身を捩らせる。
みるみるうちに赤く染まっていくさえちゃんの顔がアンパンマンみたいで面白い。


「ほら、こんなにドキドキしてるの…なんでだと思う…?」


「えっ…?わ、わかんないよッ」


ブンブンと頭を横に振るさえちゃんに私は頬に手を触れて微笑む。


「さえちゃんがいるからこんなにもドキドキするの…」


「ド、ドキドキ…?」


「うん…でも、両思いだけど片思いだから、付き合ってるなんて言えないから…」


「うん……」


悲しくなって下を俯くと、さえちゃんはそんな私を見て悲しそうな顔をして…肩にそっと手を置いてジッと私を見つめた。


「本当はもっと…さえちゃんの側にいたいよ。さえちゃんの彼女だって言いたいよ。無理なのは…分かってるんだけど…」



さえちゃんの彼女になりたい。

さえちゃんを自慢の彼氏だって言いたい。


「りんちゃん…」


好きばかりで1人歩きしていく…気持ちだけが先走っていく。



「さえちゃんが私を守る為に言ってくれてるのは分かるの…分かってるんだけど…あ〜あ…ごめんッ…私、ワガママだよね…?」


「ううん…ごめん、ごめんねっ…りんちゃん…」


ふわり


私を愛おしそうに優しく抱き締めて、りんちゃん、りんちゃん…とさえちゃんは私の名前を何度も呼んで、抱き締めてくれた。



「こんなにもドキドキして…こんなにも好きなのに…」



私の肩口に顔を埋めて、抱き締める力を強めるさえちゃん。


正直、馬鹿力でちょっと苦しい。


でも、私はそれを受け入れた。



「さえちゃん…」


「ごめんね…中途半端で…。
これからはもう自分に、りんちゃんに…そしてファンにも嘘は付かない。りんちゃんが大好き…」


「うん…」



さえちゃんがゆっくりと私を離す。

さえちゃんは柔らかにふんわりと微笑むと、私の指に自分の指を絡めた。



「さえはずっと柏木由紀推しだからね?」


「さえちゃん…」



ギュッと絡む指。
キラリと光るさえちゃんから貰った指輪。


ずっと好きでいてくれるなんて…それって…期待しちゃっても、いいのかなぁ…?



「へへっ♪りんちゃん、愛してるよ」


「私も愛してる…」


「うん…じゃ、じゃぁ…」


照れくさそうに笑うさえちゃんを見て私はゆっくりと瞼を閉じた。



「キス注意報発令」


「…それは大変だ」





なんて笑って、私達は恋人同士のキスをした。




fin.

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