AKB48

□No more Cry...
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「前田ぁー」

そう私を呼ぶ声が好きで、無邪気に笑うあなたの笑顔が好きでした。


『No more Cry...』


「ゴホッゴホッゴホッ」

薬品の匂いが鼻をつく。

病室に響く咳。

苦しそうに胸を抑えて、咳をする小さい背中。

私はハッとして優子さんに近寄ると、その小さな背中を優しくさすった。

「大丈夫…ですか…?」

「ゴホッ…大丈夫…だ……」

眉間に皺を寄せて、紫に変色した口を抑える優子先輩の顔は青白くて明らかに大丈夫そうに見えない。

ゆっくりと…確実に…

優子先輩は病に侵されていた。

この小さな身体で小さな背中で、マジ女のテッペンに君臨して、これまで何度も拳で蹴散らして来た彼女も病という敵にはなす術もない。

薬はその進行を遅らすだけ。

病室に来たサドさんがこっそり1人涙を流していたのを私は知っている。

「おい、前田ぁ…」

「なん…ですか…?」

痛いくらい私の腕を力強く掴んで、はあはあと苦しそうに肩で息をしながら、私を見上げる優子先輩の目力には身体が強張った。

「マジ女のテッペン取れ…」

「え…?」

「んで、私を安心させろ。そしたら私も心置きなくいける…」


何処に…?

とは聞かなかった。

サドさんから優子先輩はマジ女を私に託すつもりだ、とは聞いていたし、

もう彼女に

時間がないことを私は知っているから。

目に見えない敵は…

直ぐそこにある。


「いやです…」

「あ…?」

私がここで頷いてしまったら、彼女は満足するだろうか?

そしたら、彼女は遠い所にいってしまう?

「もう…」

大切な人を亡くしたくない。

「前田…?」

優子先輩の丸く大きな瞳が私を見つめていた。

段々と視界がぼやけてくる。

「すいませんっ…」

右手の甲で涙を拭うけど、涙の雫は止めどなくどんどん溢れてくる。

「何泣いてんだよ、お前…」

仕方ねぇなぁ…なんて溜め息を吐いて、優子先輩の指が私の涙を掬った。

「しょっぺぇっ…」

ペロリとその涙を舌で舐めると、当たり前のことを言う優子先輩が可笑しくて私はクスリと笑ってしまった。

「…んだよっ。笑えんじゃん。笑ったら可愛いのな…お前。勿体ねぇぞ?」

「え…?」

「泣き顔も笑った顔も…初めて見たけど、お前には…笑顔の方が似合うよ。だから…泣くな…」

私の頭に手を添えて撫でる優しい手と綺麗な笑顔。

「はい…」

人前で涙を流したのも、笑ったのも久しぶりだった。

みなみがいなくなってから、なくしていた感情。

「笑えよ、前田…」

そう言って、微笑む優子先輩の顔が私には悲しそうに…寂しそうにみえた。




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