二の篭(バルヴァン文)

□Junk Box
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* とあるサイト様で聞きかじった『FF12-2』情報から思いついた、10年後(その続編が10年後の話だということから)バルヴァン話。





1週間ぶりに帰ったラバナスタの隠れ家。
恐る恐るドアを開けて、ヴァンは軽いめまいを覚えた。

汚い。
とにかく汚い。

玄関を入ってすぐのリビングには、テーブルだけでなく、いたる所に地図と本が広げられ足の踏み場もない。
大き目のソファーには、ここで寝ていたことを示すように、くしゃくしゃの毛布が丸まっていた。
続きのダイニングルームには、食べ散らかした食器やカップが雑然とテーブルに積まれており、その横にもやはり細かい書き込みをされた資料が広げられていた。
この熱狂的とも呼べるバルフレアの集中ぶりは、父親譲りなのだろうとヴァンは溜め息をついた。


資料には手を触れないようにして食器だけを集め、ヴァンは台所へ運んで行った。すると、バルフレアがぼんやりと煙草をふかしながら、台所の床に座り込んでいた。
その迷子のような心細げなバルフレアの姿に、ヴァンは苦笑した。
急いで食器を流しに置くと、ヴァンはバルフレアに優しく声をかけた。
「ただいま、バルフレア。」
バルフレアは、ゆっくりとヴァンを見上げた。
その拍子に長くのびた煙草の灰が、ぽたりと落ちた。
「早かったな、ヴァン。帰りはもう1週間あとじゃなかったのか?」
「うん、その予定だったんだけど。」
ヴァンは頷きながら、バルフレアの胸元に落ちた灰を壊さないように手に取った。
「バーフォンハイムで偶然フランと会ったんだ。で、バルフレアの様子を聞いてすぐに帰ってきた。」
「そうか・・・。」
ヴァンの答えに、バルフレアは目を伏せた。
ヴァンはバルフレアの唇から短くなった煙草を取り上げると、流しに灰と一緒に捨てた。そして、バルフレアの横に座って軽い調子で話しかけた。
「レムルースのお宝の謎に、苦戦してるんだって?」
「ああ、あと少しなんだ。あと少しで何かが掴めそうなのに、あと1歩届かない。」
バルフレアはぎゅっと手を握り締めると、悔しそうに言った。


とある筋からフランが入手したレムルースの宝の情報。
数年前にヴァン達の活躍によってイヴァリースと交流が出来たものの、いまだレムルースは未知の世界であり謎も多い。その宝にバルフレアが興味を持ったのは、宝を手に入れたいというより、宝を得るための謎を解くことに惹かれたせいだろう。
寝食を忘れてその謎に打ち込むバルフレアを案じて、フランがこっそりヴァンにSOSを寄越して来たのだった。


バルフレアの肩に手をまわすと、ヴァンはそっと抱き寄せた。
「なら、オレも一緒に考えるよ。2人なら、何か思いつくかも知れないだろ。」
「お前と?」
目を上げたバルフレアに、ヴァンはにっこりと笑って頷いた。
「そう、オレと。そしたら、きっとうまく行くって。」
出合った頃と変わらないヴァンのまぶしい笑顔に、バルフレアは寝不足の目を瞬かせた。
ヴァンは身軽く立ち上がると、バルフレアの腕を引っ張って立たせた。
「でも、その前に風呂に入ろう。そんなに汚れてちゃあ、男前が台無しだ。オレが綺麗に髪も洗ってやるよ。」
そう言ってヴァンは、バルフレアの背中を押して浴室へと向かった。
「風呂から上がったら、砂海亭に行くんだ。この1週間ろくなもん食べてなかっただろ?」
「おい、レムルースのお宝は?一緒に考えるんじゃなかったのか。」
バルフレアの抗議に、ヴァンはきっぱりと首を振った。
「そんなの後、後。砂海亭から帰ったら、ちゃんとベッドで寝るんだ。美味しいものを食べて、充分な睡眠をとる―――それからだよ。」
ヴァンの有無を言わせぬ断固たる口調に、バルフレアは諦めたように溜め息をついた。
そして、入浴の準備をするヴァンの後ろ姿に、すねたように問いかけた。
「髭もお前が剃ってくれるのか?」
「うん、剃るよ。」
「砂海亭に行ったら、トマジの所には行かずに俺の側にいろよ。」
「分かった。」
「帰ったら、一緒に寝てくれるんだろうな。」
「腕枕に子守唄もつけるよ。」
ヴァンは笑いながら、バルフレアを振り返った。
「他には?まだ、なんかある?」
おどけたように肩をすくめるヴァンに、バルフレアは手を広げた。
「今すぐ、キスしてくれ。」

その言葉を聞いた瞬間ヴァンの足は床を蹴って、バルフレアの胸に飛び込んで行った。




クサイと思いながらも、この話のタイトルは・・・

「今すぐKiss Me」


〜FIN〜



(2012/6/13)

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