二の篭(バルヴァン文)

□誰かを想う&LOVEシリーズ
10ページ/11ページ



 ** Love Panic U ** 



――一体、どうしたんだろ?

ヴァンはモスフォーラの山道を歩きながら、後からじっとりと絡んでくる視線にそう考えた。
パンネロに話しかけるふりをして、さりげなく後を振り返ってみたが、バルフレアは普段と変わらない様子でフランと話している。勘違いだったかとヴァンがまた前を向くと、たちまち熱視線が背中に絡み付いてくるのだった。
ヴァンは意味不明の重たい視線に溜め息をついた。


モブ討伐の依頼人に会うためモスフォーラ山地を目指すヴァン達一行は、本当ならば昨日ラバナスタを出発する予定であった。
だがその前の夜、砂海亭で飲みすぎたバルフレアの体調がおもわしくないため、出発を1日のばした。
急な予定変更にアーシェは眉をひそめたが、戦闘続きの強行軍が続いていた一行にとって、ちょうど良い休暇になった。皆は久しぶりのラバナスタの街へ、バルフレアを残して隠れ家を出て行った。
「じゃあ、昼飯と飲み物はここに置いたからな。ゆっくり寝てるんだぞ。」
そう言って、ヴァンも街へ飛び出そうとしたのだが、バルフレアはベッドからヴァンの腕をむんずと掴んだ。
「なに?オレ出かけるんだけど。」
不満そうに振り返ったヴァンに、バルフレアは少し青い顔で首を振った。
「いや、今日はここに居ろ。」
「なんでだよ?いつも飲み過ぎた時は、うるさいからって追い払うじゃないか。」
久しぶりにカイツやフィロに会おうとしていたヴァンは、たちまち口を尖らせた。
その大声に顔をしかめながらも、バルフレアはヴァンの腕を放さない。
「いいから、お前はここに居ろ。」
そう言って、ヴァンをベッドの中に引きずり込んだ。
「ちょっとー!」
ヴァンは不満そうな声を上げてジタバタしたが、バルフレアの長い腕に抱きこまれ、おまけに長い足を絡められればヴァンは身動きできない。
「何だよ、もう・・・。朝起きた時から、あんたおかしいよ。」
ヴァンはブツブツ文句を言いながらも、内心バルフレアの体調がすごく悪いのではないかと心配になり、抵抗をやめてバルフレアの腕の中に大人しく納まった。
そんなヴァンをバルフレアは黙って抱き締めて、何故か深い溜め息をついた。そして、ヴァンの髪を優しく梳くばかりで、何も話はしないし動きもしない。
「なあ、そんなに具合悪いのか?」
バルフレアの胸に頬を当てたままで、ヴァンは心配そうに小声で尋ねた。
「いや・・・。」
バルフレアは力なく答えた。
「なら、もうオレ出かけても・・・、」
そうヴァンが言いかけた途端、ヴァンの背中に回したバルフレアの腕に力がこもった。
ヴァンが驚いて顔を上げると、バルフレアがらしくない不安そうな顔でヴァンを見詰めていた。
そんなバルフレアを見たのは初めてで、ヴァンはびっくりした。
「分かったよ。今日はここに居る。ずっと、あんたの側にいるから。」
思わずヴァンがそう言えば、バルフレアは、またらしくない素直な安堵の笑みを浮かべた。
バルフレアのそんな笑顔を見るのも初めてで、その顔にヴァンは胸がキュンとときめいた。そして、ヴァンは頬を染めながらバルフレアの首に腕を回した。
ヴァンの耳元にバルフレアの忍び笑いが響いて、そっと唇が首筋に押し当てられれば、ヴァンは堪らず熱い吐息をもらした。バルフレアの長い指がベストの留め金をはずし、絡んだ足が更に絡み、まだ昼にもならない時間だというのに若い2人の身体は簡単に熱くなっていった。



明るい日差しのもとで、あられもなく乱れてしまった昨日の自分を思い出し、ヴァンは恥ずかしさに顔を覆った。
(それに、あいつ全然元気だったんだよな。)
いつも以上の激しさで自分を翻弄したバルフレアのことも思い出し、ヴァンは更に頬を染めた。
結局、2人は皆が帰ってくる夕方まで、食事もとらずにベッドの中で過ごしてしまった。あれ以来、バルフレアはなにかと自分を側に置きたがる。
こうして離れて行動している時も、ずっと注がれるバルフレアの粘着質な視線に落ち着かないことこの上ない。ヴァンは、さっきから何度もついている溜め息をまたひとつついた。
その時、突然目の前の岩陰から、ウォーグウルフが飛び出してきた。
バーサク状態になっているウルフで、スピードもパワーも普通のウルフとは桁違いだった。ぼんやり考え事をしていたヴァンは、つい反応が遅れた。
(しまった!)
とヴァンが思った時、後方から鋭い銃声が響いてウォーグウルフはどうっと地面に転がった。
その隙にヴァンも剣を抜き、集まってきたウルフに斬り付けた。前を歩いていたバッシュもすぐに駆けつけ、すばやく援護してくれ事なきを得た。
「ごめん!オレ、ぼんやりしてた。」
ヴァンは、自らの失敗に顔を青くしながら頭を下げた。
いつもなら、バルフレアの厳しい叱責と拳骨が飛ぶ。ヴァンは覚悟して唇を噛み締めた。
だが―――。
「気をつけろよ。」
ポンッと頭を軽く叩いてバルフレアは通り過ぎて行った。
「え?」
ヴァンは驚いて顔を上げたが、バルフレアはすでに歩き去った後だった。
「怒られずにすんでよかったね。次は気をつけてね、ヴァン。」
パンネロは無邪気に笑いかけたが、ヴァンは違和感に首をひねった。
(ホント、どうしたんだよ?バルフレア・・・。)
ヴァンは不安げな眼差しで、小さくなるバルフレアの背中を見つめた。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ