二の篭(バルヴァン文)

□バルヴァン中くらいの話
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 ■ LOVE & TRUTH ■



久しぶりに帰ってきたラバナスタ。
帝都を目指す旅に出る前の静養で、つかの間の戦士達の休息だった。
空賊コンビは砂海亭で一杯やり、お子様コンビは幼馴染の店員とカウンターでおしゃべりを楽しんでいる。
その様子を、バルフレアは二階の席から見るともなしに見ていた。
時たま明るい笑い声が、この席にも届く。
まだ先の見えない旅のこれからを思うと、無邪気に笑う二人が羨ましくもあり、苛立たしくもある。


「気楽でいいねぇ、お子様は・・・。」
思わずそんな嫌味が口をついた。
「あら、あの二人も随分成長したわよ。」
向かいに座る相棒のヴィエラが美しく微笑んで言えば、バルフレアは大げさに肩をすくめた。
「どうだか?」
するとフランは、おかしそうに笑った。
「貴方も、あの頃はあんなものよ?」
「やめてくれ。」
バルフレアは嫌そうに整った眉を顰めた。
「俺はアイツみたいにアホ面で笑ったりしてない。」
「笑えばよかったのに、ね?」
そう切り返されて、バルフレアはぐっと詰まった。
フランに―――いや、女性に口で勝てるわけなかった。
「・・・降参だ。」
バルフレアは、両手を広げて溜め息をついた。そんな相棒にフランはクスリと笑うと、少し声をひそめて言った。
「ねえ、一つ忠告してもいいかしら?」
何だと言う様に、バルフレアは片方の眉を上げた。
フランは口元に笑みを浮かべたまま、バルフレアの瞳を覗き込むようにして言った。
「あんまり子ども扱いしてると、手を噛まれるかもしれなくてよ?」
「は?」
バルフレアの顔がみるみる不機嫌に歪む。
「よしてくれよ。あんなバカ犬を飼った覚えないぜ。」
だがフランは、グラスを口元に運びながら澄まして言った。
「飼われた方かもね。」
「・・・・・。」
今度こそとどめを刺されたバルフレアは、グラスの酒もそのままに席を立った。そして、無言で足早に店を出て行く。
それを二階から見送りながら、フランは綺麗な肩をすくめた。
「少し苛め過ぎたかしら・・・?」



不機嫌な顔で砂海亭を出て行くバルフレアに気付いて、ヴァンとパンネロは不思議そうに顔を見合わせた。
「どうしたんだろ?フランとケンカでもしたのかな?」
そう言うヴァンに、パンネロは笑った。
「まさか!フランに勝てるはずないのに、ケンカなんてしないでしょ。」
「あ、そうだな。」
バルフレアが聞いたら、ゲンコツ決定なことを二人は言い合った。
すると、トマジが訳知りな顔でニヤリと笑った。
「バカだな、二人とも。あれはコレの所に行くからだよ。」
そう言って、小指を立てた。
得意そうなトマジに、パンネロが顔をしかめた。だが、ヴァンは不思議そうに首をかしげた。
「それって女の人ってコトか?」
「ああ、そうだ。」
トマジは頷いた。尚も、ヴァンはキョトンとした顔で尋ねた。
「なら、なんであんな不機嫌な顔なんだよ?普通はさ、嬉しそうだったり、にやけるんじゃないのか?」
すると、たちまち一つ年上の幼馴染は、小バカにしたように笑った。
「だから、お前はお子様なんだよ。あの男は格好つけなんだろ?なら、フランさんの手前、最初からニヤニヤして女のトコ行くわけないじゃないか。」
「そう・・・なのか?」
「そうさ。」
断言するトマジを、ヴァンは釈然としない顔で見つめた。
そんなヴァンにトマジは顔を寄せると、得意そうに言った。
「それが、テクニックってもんだよ。普段澄ました顔をしておいて、二人だけになると極上の笑顔を見せる。そのギャップに女は弱いんだよ。」
トマジは、ヴァンの肩を勢いよく叩きながら笑った。
パンネロは、そんなトマジを胡散臭そうな目で見たが、ヴァンは俯いて考え込んでしまった。


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