二の篭(バルヴァン文)
□Season's Greetings(2015年〜)
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【クリスマスSS】
■ 甘くて苦い ■
約束は二時間前だった。
聖誕祭で賑わう飛空艇ターミナルでヴァンはひとり佇んで、来ない人を思ってため息をついた。
無理だと言ったバルフレアに、勝手にこの日に会う約束を押し付けたのはヴァンだ。
だから来なくても仕方がないと分かっていながらも、出されたバルフレアの答えに胸が潰されるような気がした。
実際、年末にかけてこの時期は空賊は忙しい。
稼ぎ時なのだ。
駆け出しルーキーの空賊のヴァンだって、この日の夜を空けるために、いくつもの仕事を断らねばならなかったし、その中には断り難い美味しい仕事もあった。
かなりの不義理もしたし、パンネロにも散々文句を言われた。
それでも---。
そうしてでも、ヴァンはバルフレアに会いたかったのだ。
あれは聖誕祭を一週間前に控えたある日。
日に日に聖誕祭に向けて街が活気づいていき、家族連れや恋人たちが寄り添うように店を覗き込み買い物をしている様を見て、いつもなら微笑ましく思うだけのそれらが、何故か心に棘を刺した。
まるで親にはぐれた子供のような心細さと、世界に見捨てられたような不安。
そんな気持ちに駆られて、ヴァンはバルフレアに会いたいと連絡を取ったのだが、返ってきたのはけんもほろろな答えだった。
「無理だ。今は忙しい。」
「それは分かってるよ。でも、ちょっとでいいんだ。例え一時間でもいいから会いたいだ。」
「たったその一時間のために、俺にどれだけの無駄な飛空時間を強いることになるか分かってるのか、お前は?」
「なら、オレがそっちに・・・」
「状況がいつ変わるかも知れないのに、ぼんやりお前を待ってられるか!」
堂々めぐりの言い合いに、切れたのはヴァンだった。
「分かったよ!バルフレアにとってオレと会う時間なんて全くの無駄だって言うんだな!」
「誰もそんなこと言ってないだろう。今は無理だと言ってるんだ。」
やれやれとあからさまに呆れたような口ぶりで言われて、ヴァンは目の奥が熱くなるのを感じた。
自分がわがままを言っている自覚はある。
だが、高ぶった感情が決して口にしてはならない一線を超えさせた。
「・・・そうかよ。バルフレアにとってオレなんて結局どうでもいい存在なんだな。」
飛空艇の通話口越しにバルフレアの気配が硬質になるのが感じられた。
「本気でそう言ってるのか?」
ぐっと低くなったバルフレアの声音にヴァンの心臓はドキリとした。
だが、一旦こぼれだした言葉はヴァンにも止められなかった。
「そうじゃないなら、聖誕祭の夜にラバナスタに来てよ。来なかったら、そういうことなんだって思うから!」
そう叫んでヴァンは一方的に通話を切った。
バルフレアは何かを言いかけていたような気もするし、そうでなかったような気もする。
どちらにしても、こんな子供じみたわがままを言った自分はさぞかし呆れられたことだろうし、その願いは叶えられそうになかった。
「自業自得だけど・・・」
ヴァンは力なく肩を落として呟いた。
「会いたかったんだから仕方ないじゃん・・・」
その時、飛空艇ターミナルの人々がわっと声を上げて、窓へと走り寄った。
ヴァンもつられて窓に目をやると、外にちらちらと雪が舞っていた。
ダルマスカは高温な砂漠の国であるが、夜の冷え込みはかなり厳しい。
そのため、稀なことではあるが隣接したギーザ草原の雨が風に乗って運ばれ、その雨が冷気で一瞬のうちに冷やされ雪のように降ることがあった。
キラキラとターミナルのライトに照らされ舞う雪は儚く美しかった。
ひらりひらりと、まるで風花のように舞い、地表に降り積むことなく消えていく姿はまるで自分の恋のようで、ヴァンは痛む胸を堪えながらじっと見つめた。
すると、そのヴァンの視界にするりと優雅な白い機体が音もなく滑り込んできた。
ドキンとヴァンの心臓が大きな音を刻んだ。
見間違える訳がない、見間違えようもない、6基ものグロセアエンジンと特徴的な可変翼。
大声で叫んで泣き出してしまいそうで、同時に笑い出してしまいそうでもあり。
大きな感情のうねりに戸惑いながら、それでもヴァンは飛空艇ドッグに向かって走り出していた。
ごめん!てちゃんと謝ろう。
馬鹿なわがままを言ってごめんなさいって。
飛ぶようにターミナルを走り抜けて行くヴァンに、人々が驚きながら道を開ける。
それから、ありがとうって。
来てくれて嬉しいって。
ドッグに降りる階段を駆け下りながら、それすらももどかしくなったヴァンは残りを一気に飛び降りた。
その時、ちょうど階段の向かいのドッグの扉が開いた。
ヴァンは中から現れた愛しい人に「大好き!」と言いながら飛びついていった。
〜FIN〜
(2017/12/25)
めっちゃ久しぶりの更新(*ノωノ)
あ〜、しかも毎度同じような話で申し訳ない!!
この話はお気付きの方もいらっしゃるでしょうが、Y下T郎さんのあの歌をモチーフにしてます。
この時期めっちゃ流れますもんね!
ラバナスタに雪なんて降るんかいな?と思いつつ、強引に降らせました(^^;)
ちょっとビターテイストの話なので、このタイトルに。
皆さん、よいクリスマスをお過ごしください〜♪
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