DDFFの篭

□FFの日SS
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【FF12の日★記念SS】

   注*精神的なヴァンガブです。



そのひずみは、人目を避けるようにあった。
まるで存在そのものを消したいようにひっそりとしていて、そのひずみの主も世捨て人のような鎧姿の武人だった。
そんなひずみに、ヴァンは一人で入って行った。



「お―い、居るか?」
まるで友達の家を訪ねたようなヴァンの気軽さに、ガブラスは苦い溜め息をついた。
「お前、また来たのか・・・。」
うんと頷きながらヴァンはガブラスに駆け寄ると、手に持った篭を目の高さに上げた。
「ティファがアップルパイ焼いてくれたんだ。一緒に食おうぜ。」
その無邪気な笑顔に、ガブラスはまた一つ溜め息をついた。
彼ならば、こんなひずみに来て食べなくとも、一緒に食べる仲間がいるだろうに―――。
あえて此処に来る彼の真意が解らなかった。


だが、構わずガブラスの隣に座った少年は、ぱくぱくとアップルパイを食べはじめた。
「ほら、あんたも早く食べろよ。せっかく焼きたてを走って持って来たのに。」拗ねたような口ぶりにガブラスは苦笑した。
「別に俺が頼んだ訳じゃないがな。」
そんな憎まれ口を叩きながらも、ガブラスは篭に手を伸ばした。まだ温かいアップルパイは、外はサクッと香ばしく中はトロリと熱い林檎が溶け出して美味だった。
「美味いな。」
思わず正直な気持ちが口から転がり出た。
「そうだろう。ティファの作るパイは、ほんと美味いんだ!」
嬉しそうに言うヴァンに、ガブラスは複雑な顔つきになった。
「俺などが貰ってよかったのか?」
すると、ヴァンはびっくりしたようにキョトンとした顔をしたが、すぐに弾けるように笑い出した。
「何遠慮してんだよ、あんた!ダメなら持って来てないって。」
そう言いながら、ヴァンはさも可笑しそうに身体を揺って笑う。その姿にガブラスは、眉をしかめた。
「遠慮ではない。お前が酔狂なヤツだと思っただけだ。こんな所へ何度も、何の為に来る?」
そう声高に言い放つガブラスに、ヴァンは口の中にアップルパイの最後の一欠けらを押し込むと、笑いながら答えた。
「さあ、なんでかな?オレにも分かんないや。」
その答えに脱力して、ガブラスは黙ってアップルパイをかじった。



食べ終わったヴァンはピョンと立ち上がると、キョロキョロとひずみの中を見渡しながら言った。
「あんたさ、このひずみから出られないの?」
「いや、出られない訳じゃない。」
「なら、出ようとは思わないの?」
「ああ、思わない。」
ガブラスは淡々と答えた。
ヴァンはそんなガブラスを不思議そうに見ながら、ぽつりと言った。
「此処にずっと一人でいて、淋しくないのか?」
その問いにガブラスは唇を歪めて笑った。
「淋しい?この俺が?前にも言っただろう。犬は地獄に落ちたと。たとえ、このひずみを出たところで、また新たな闘争の繰り返しなだけだ。俺はもう・・・、」
そこで言葉を切り、ガブラスは重い溜め息をついた。眉間に深い皺を寄せ、絶望が刻まれた横顔だった。
すると、その肩にヴァンはそっと手を置いて、ガブラスの顔を覗き込んだ。
「もう戦うことに疲れたのか?」
その声に含まれた優しさと肩に置かれた手の温かさに、ガブラスは小さく身震いした。
そんなガブラスの頭をヴァンは胸に抱え込んだ。
「な、何をっ!」
驚くガブラスの背中を、ヴァンは宥めるように優しく叩いた。
「あんたが疲れたのなら、ここで休んでいたらいいよ。オレ達が戦いを終わらせる。あんたは、もう戦わなくていいよ。」
「・・・馬鹿野郎。」
ガブラスは小さく呻くように言った。
しかし、年下の少年の細い腕を振りほどくことができなかった。長い間忘れていた誰かに気遣われる温かさ―――その優しさに、ガブラスの胸は震えた。
そっと肩の力を抜く。ヴァンの腕の中は温かく、子供のように背中を撫でられるのは心地よかった。


「お前は、本当に酔狂な奴だ。」
ガブラスはそれだけ言って、静かに目を閉じた。


〜FIN〜


(2011/12/12)



ガブラスには、常に「贖罪」というイメージがついて回る気がします。
それは、兄バッシュも同じはずなのに、ガブラスだけ抜け出せなかったのは、ヴァンと出会えてないからだと邪推してます。
ヴァンと出会えて許されていれば、あの笑顔に頑なな心が溶かせていたら・・・なんてね。
そんなイメージで、この話を書いてみました。

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