DDFFの篭

□FF12ヶ月物語
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【 4月・・・4X12 】



バサリと黒いマントを翻すと、ゴルベーザはその姿を闇の中へとかき消した。
後に残されたセシルは、一人渓谷に佇んで夜空の月を見上げた。


「へえー、今のがセシルの兄さんか。」


不意に後ろから声が掛けられた。
驚いてセシルが振り返ると、カリッと瑞々しい音を立てながら林檎をかじるヴァンがいた。

「全然似てないよな、セシルと。」

そう言って笑いながら、ヴァンはセシルにも林檎を差し出した。
セシルは少し身構えながら、その林檎を受け取った。
コスモス軍の中には、カオス軍に兄がいるセシルのことを、内心危惧する者がいる。無邪気そうな顔をして、実はヴァンもその一人だったかと、セシルは思った。

「さっきの僕達の話を聞いていたのかい?」

セシルがいつもの彼らしくない険のある声音で尋ねると、ヴァンはびっくりしたように目を丸くした。

「いや、聞いてないけど。あれ、もしかしてセシル、何か怒ってる?」

セシルの硬い表情に、何かを感じたらしいヴァンは首をひねった。
そして、あっという顔になった。

「ごめん!もしかして、セシルは林檎がキライだったのか?」

「いや、林檎は好きだよ。」

セシルは自分の思い過ごしに苦笑しながら、手にした林檎をかじってみせた。

「そっか。なら、よかった。」

ヴァンは安心したように笑うと、また林檎をかじった。辺りに林檎の甘酸っぱい香りが漂った。
セシルは、兄ゴルベーザの去った方を見詰めながら、ポツリと言った。

「カオス軍に兄がいる僕を、ヴァンは心配しているのかと思ったんだ。すまない。」

すると、またヴァンは空色の瞳を驚きで丸くした。

「心配?なんで心配すんの?オレ、セシルのことスゲー羨ましいのに。」

「羨ましい?僕を、かい?」

意外なヴァンの言葉に、今度はセシルが驚いた。
ヴァンは「うん」と頷くと、また林檎をカリッとかじりながら言った。

「だってさ、記憶がないままにこんなトコに集められて、しかも戦えって言われてさ。その敵や仲間さえも、違う世界から来た連中なんだぞ。それなのに、セシルには同じ世界から来たカインもいて、その上兄さんまでいて。オレ、すごく羨ましい。」

「そうかな。だって、兄さんは敵なんだよ。」

ヴァンの明るい言葉に、セシルは素直に頷けずに言った。

「でも、セシルのこと心配して、会いに来てくれたんだろ?優しいじゃん。」

ヴァンは事も無げに言った。
そして、またあっという顔をした。

「そっか。セシルとゴルベーザって似てないと思ったけど、優しいとこが似てるな。やっぱ、兄弟だな!」

セシルは、アハハと屈託なく笑うヴァンを見詰めながら、先程の兄ゴルベーザの言葉を思い出していた。


『他者との絆など夢幻にすぎぬ
 壊れやすく信じる価値もない――』



兄の言葉の真意は、まだ自分には分からない。
だが、目の前で笑うヴァンの笑顔は、確かに自分を勇気づけ暖かな気持ちにしてくれた。

「これも仲間との絆なんだよ、兄さん・・・。」

ポツリとつぶやくセシルに、ヴァンが「ん?」という顔をした。

「いや、何でもないよ。おいしいな、この林檎。」

セシルは笑って林檎をかじった。
すると、ヴァンは得意そうに笑って鼻の下をこすった。
二人の頭上には、月が優しく見守るように輝いていた。




〜FIN〜



DDFFでのセシルとゴルベーザのやり取りに、ヴァンを絡めてみました^^
きっと、迷うことのないヴァンは、迷いがちなセシルにとって、いい刺激になると思うのです。

そういえば、セシルは飛空艇団「赤い翼」の初代団長なのですから、その記憶が戻れば、ヴァンはセシルにすごく懐くような気がします。

そんな話も、いつか書いてみたいですv




(4月 拍手文)

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