DDFFの篭

□FF12ヶ月物語
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【 10月・・・10X12 】



「あっ・・・!」

突然の強い風がヴァンの手から地図を奪い、空高く巻き上げた。
慌てて手を伸ばしても掴めるはずもなく、羊皮紙の地図はくるくると風に弄ばれ、やがて目の前に広がる海に落ちた。
「あ〜あ、やっちまったな。」
ヴァンは頭をかきながら溜め息を付いた。


それは、ライトニングに頼まれて別行動のユウナに届ける地図だった。
今日のユウナのパーティには、天性の方向音痴のラグナがいる。ラグナに掻き乱されて、しっかり者のユウナでもさぞ苦労するだろうと、姐御肌のライトニングが気遣ったのだ。
今日は戦闘メンバーでないヴァンは、暇つぶしがてら日頃世話になっているユウナの役に立ちたくて、そのお使いを志願したのだった。


地図は波に乗り、次第に沖へと流されて行く。
「しくったな。早くしないと、完全に沖に流されちまうぞ。」
そう思いながらも、ヴァンは海に入るのをわずかにためらった。
実は、ヴァンは泳げない。というか、”海”というものを知ったのもごく最近のことだ。
ヴァンに”海”を教えたコスモス軍メンバーは、ヴァンが海に入ることをきつく禁じた。特にライトニングに至っては、
「お前がもし勝手に海に入ったら、この剣でたたっ斬る!」
と、オメガウェポンをかまえて言った。
まさか本当にそんなことはしないだろうが、ライトが真剣に自分の身を案じていることが分かったヴァンは、決して海に入らないことを約束したのだ。
だが、ヴァンがそんな逡巡する間にも、地図はどんどん沖へと流されていく。
「ごめん、ライト。だけど、非常事態だ。」
ヴァンは口の中でそう謝ると、海へと向かって歩き出した。


するとその時―――。


ヴァンの横を、一陣の風が吹き抜けるように一人の人物が走り抜けた。
あっと驚くヴァンの目の前、その人物はザブリと水しぶきをあげて海に飛び込んだ。そして、力強いストロークで見る間に地図へと泳ぎ着いた。
「これ、お前のだろ?」
地図をつかんで振り返ったのは、金色の髪に碧い瞳をしたヴァンと同じ歳くらいの少年だった。
ヴァンがまだ驚いた顔のままで頷くと、その少年はにっこりと笑った。そして、地図を片手に持ったまま器用に泳いでヴァンの元へと帰ってきた。


「はい、これ。もう、落とすんじゃないッスよ。」
差し出された地図を、ヴァンは複雑な顔で受け取った。
目の前の少年は、濡れた髪をかき上げながら人懐っこい笑顔を浮かべている。
だが、彼はコスモス軍ではない。
この世界でコスモス軍ではない人物がいるとするなら、それはカオスの戦士であることを意味する。
ヴァンはいつもの彼らしくない、屈託した声で礼を言った。
「ありがと。悪かったな、・・・敵なのに。」
すると、少年ははじけるように笑った。
「敵だなんて、関係ないッスよ。困ってるみたいだったから、勝手に俺がしただけ。それに、ちょうど泳ぎたい気分だったッス。」
その無邪気な笑顔に、ヴァンもようやく笑顔を浮かべた。
「あんた、泳ぎうまいな。オレ、泳げないんだ。」
「マジで?」
「マジ!だから、仲間から勝手に海に入ったらダメって言われてんの。」
「ええー?海で泳ぐの気持ちいいのに〜。」


少年の言葉に、ヴァンは瞳を海に向けた。
穏やかな日の光を浴びて、波がキラキラと輝いている。あの波に身体を委ねたら、まるで空を飛んでいるような気持ちがするだろうか。
ひととき瞳を閉じて、想像してみる。
だが、まぶたの裏に残る波の輝きが、キラリと光るオメガウェポンの刃先を連想させて、ヴァンは小さく肩をすくめた。
「やっぱ、いいや。オレは、海より空がいい。」
「空?」
怪訝な顔で問い返した少年に、ヴァンはにっこりと頷いた。
「うん。オレ、空賊になりたいんだ。だから、海で泳ぐより空を飛ぶ方が好きだ。」
「そうッスか。」
少年も笑って頷いた。


そんな二人の間を、ざあっと強い風が吹き抜けた。
ヴァンは今度は飛ばされないように地図をしっかり握り締めると、少年にお礼と別れを告げた。
「じゃあ、オレ行くな。地図拾ってくれてありがとう。」
それに少年は軽く手を上げて答えた。
「気をつけるッスよ。じゃあな。」
そしてお互いに背を向けると、二人は振り返らずに前を向いて歩き出した。
二人の間に広がる海が、ただ静かに波を寄せては返した。




〜FIN〜


初めてのティーダ書きですv
本当は二人の会話をもっと書こうかとも思ったのですが、あえての少なめの会話にしました。

敵同士だけど、こんな風に偶然二人が会って心惹かれていく・・・というシチュは、とっても美味ですねvv



(10月 拍手文)



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