DDFFの篭

□ラグヴァン短編集
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【 ラグヴァン祭り 参加作品 】

Stay by my side



聖域に温かなオレンジの陽が満ち、夕暮れが近くなったことを知らせる。
各地に散った戦士達も、その身体を休めるために、三々五々聖域へと帰って来ていた。
「あー、疲れたな。」
ラグナはマシンガンを肩から下ろすと、後のヴァンを振り返りながら言った。
が、そこにヴァンの姿はなかった。ラグナが慌てて辺りを見渡すと、遥か後方でバッツとジタンに向かって走っていくヴァンの姿が見えた。
「たく、元気だね〜。」
ラグナは呆れたように肩をすくめると、一足先に帰ってきて食事の支度を始めているユウナとティファの方へ歩み寄った。
「あ、ラグナ。お帰りなさい。」
ティファが笑いながらラグナを出迎える。
「あれ、ヴァンは?一緒じゃなかったの?」
小首を傾げるユウナにラグナが答えようとした時、後からバタバタと走り寄る音がした。
「ユウナ、ティファ、ただいまー!」
「お帰り、ヴァン。」
ヴァンはラグナの横をすり抜けてユウナ達に駆け寄ると、さっそくお鍋を覗き込んでひとつ摘み食いをした。
「あー、こら!ヴァン、お行儀悪ーい!」
「ごめん、ごめん!」
ティファに怒られて、ヴァンは笑いながらまた走り去っていく。
その後ろ姿を見送りながら、ラグナは苦笑いの溜め息をついた。
若さの溢れる少年は、疲れを知らない様子であちこち飛び回っていく。それはまるで気まぐれな風のようで、掴もうとしても、引き止めようとしても叶わないようだった。
ほどなくして食事になったが、ヴァンは今度はオニオン・ナイトの側につきっきりで煙たがられながら世話をやいていた。
「寂しそうだな。」
ひとり皿をつつくラグナに、隣に座ったカインが話しかけた。
「は?」
怪訝な顔をするラグナに、カインはフォークでヴァンとオニオン・ナイトを指しながら言った。
「相棒が側にいなくて、調子が出ないんじゃないか?」
「だーれが相棒だよ。残念ながら、俺は一人が似合う大人の男なんですけど。」
からからと明るく笑うラグナを、カインは気遣うような目で見た。だが、特に言い返したりせず、また皿に目を戻すと静かに言った。
「そうか、ならいい。今日の最初の火の当番はラグナだ。頼んだぞ。」
ラグナも笑いを納めると、小さく頷いた。
「わかったよ。」


やがて月が空高く昇り、焚き木のまわりで話をしていた戦士達も其々のテントへと引き上げた。
火の当番のラグナは、一人ぽつんとその場に残った。
小枝を折って火に投げ込みながら、月を見上げる。柔らかな金の輝きに、ここには居ない少年の髪を思い出し、ラグナは知らず深い溜め息をついた。
その時、かさりと小さな音と共に、ヴァンがテントから出てきた。
「よう、どうした?忘れ物か?」
驚きながらも、わざと明るく問いかけるラグナに、ヴァンはかぶりを振った。
「んー、違う。でも、忘れ物と言えば、そうだけど・・・。」
少し困った顔で言いながら、ヴァンはラグナの横に座った。
そんなヴァンを優しい目で見守りながら、ラグナはからかうように言った。
「なんだよ、歯切れ悪いな。いつものヴァンらしくない。」
「ん、あのさ。」
ヴァンは下を向いたまま、自分の膝を手で撫でながらボソボソと言った。
「今日あんまラグナの側に居なかったからさ、それが忘れ物っていうか、なんて言うか・・・。」
「ヴァン・・・!」
思わずラグナが声を上げれば、ヴァンはパッと顔を赤らめて急いで立ち上がった。
「ごめん!オレ、変なこと言った!忘れて!」
そう言って走り去ろうとするヴァンを、ラグナは慌てて抱きとめた。
「行くな、ヴァン。」
抱き締めたヴァンの身体は温かく、トクトクと早鐘のような心臓の音が腕に伝わった。
「え、あの、ラグナ?」
戸惑うヴァンは、ラグナの腕から逃げ出そうとジタバタした。そんなヴァンを、ラグナはぎゅっと抱き締めた。
「行くなよ、ヴァン。俺の側にいてくれ。」
耳元にそっと囁けば、ヴァンの身体がぴくりと震えた。
そして「うん」と小さく返事をすると、そっとラグナの胸に赤い顔を隠すように埋めた。



〜FIN〜


(2011/8/18)


ラグヴァン祭り主催の斉田さんの漫画にインスパイアされて書いたSSです。
斉田さん、ありがとうございましたvvv



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