DDFFの篭

□ラグヴァン短編集
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〜七夕に寄せて〜

゜★*。Starry Night 。*★゜




劇場艇プリマビスタ。
ヴァンは、コスモスに呼ばれた世界で、この飛行艇が一番好きだった。この艇に乗ると、必ず半円形の甲板の先に座り、何時間も空を見つめていた。
いつもは賑やかなヴァンが、その時ばかりは静かで、ただひたむきに空への憧れに身を委ねている様子だった。
初めはそんなヴァンを冷やかしたり、危ないと注意していた仲間達も、最近では何も言わなくなった。呆れながらも諦めて、ヴァンをそっと一人にしておいた。
そして、今日もヴァンは一人で夜空を見上げていた。


「ま〜だ見てるのか。」
半分呆れ、半分心配そうな口調で、ラグナがヴァンの背中に声をかけた。
ヴァンはちらりと後を見ると、ラグナを手招きした。
(お、珍しい。)
いつもはここで空を見ている時は、ヴァンは話しかけられても振り向きもしないことが多い。まして、手招くなど今までになかったと、ラグナは驚いた。
そして、ヴァンの気が変わらない内にと、ラグナはいそいそとヴァンの隣に腰掛けた。
ヴァンの隣で見上げた夜空は、満点の星が輝き、まるで漆黒のヴェールに宝石を散らせたような美しさだった。
「ほお〜、綺麗だな〜。」
素直に感嘆の声を上げたラグナに、ヴァンが静かに言った。
「天の川って言うんだって。」
「あまの・・・川?」
聞きなれない言葉に、ラグナは首を傾げた。
「うん。昼間ユウナに教えてもらったんだ。星が川のように見えるだろ?だから、天の川って。」
「そうか。ユウナには、前の世界の記憶があるもんな。」
ラグナは納得したように頷いた。そんなラグナをちらりと見て、ヴァンはポツリと言った。
「天の川には、七夕伝説っていうのがあるんだって。」
「たなばた?」
聞きなれない言葉に、またラグナは首を傾げた。
ヴァンは夜空を見上げたまま、うんと頷いた。
「それもユウナから聞いたんだけどね。七夕伝説は、神様から罰を受けて、一年に一回しか会うことが許されない夫婦の話なんだって。」
「一年に一回〜!夫婦なのに〜?」
大袈裟に驚くラグナに、ヴァンは少し笑った。
だがそれは、いつものヴァンらしくない寂しそうな笑顔だった。
「その時に、天の川を渡って会いに行くんだって。」
「ふうん。」
ラグナは相槌を打ちながら、ヴァンを横目で盗み見た。ひどく横顔が寂しげに見える。いつにないヴァンの姿に、ラグナは眉をひそめた。
「ひどい話だよな。神様って、どこでも偉そうなんだな。一年に一回しか会わせなかったり、勝手に戦うために違う世界から呼びつけたり、さ。」
ヴァンは小さな子供のように膝を抱えると、その上に顎を乗せて言った。
そう言うことか―――と、ラグナは内心で頷いた。
純粋な若者らしく、ヴァンは力あるものの理不尽とも言える横暴さに、嫌悪を感じているのだろうと思った。
「まったくだな。神様ってヤツは仕方ないヤツだ。」
ラグナはヴァンの頭にポンッと手を置くと、わざと明るい調子で言った。指になじむ柔らかな金色の髪を、優しく掻き混ぜる。
「その神様のおかげで、こっちはてんてこ舞いだ。勝手に呼びつけられて、次から次と湧いてくるへんなお人形相手に、もう戦いどうしでさ。くったくたで、ヘロヘロで、もうなんとかしてくれって言うか、神様なんだから自分で何とかしろって言うか。な、ヴァン?」
ラグナはそこまで一気にしゃべると、ヴァンを見た。
だがヴァンは、相変わらず寂しげな様子で膝を抱えたままだった。
「どうしたんだよ、ヴァン?なんか変だぞ、今夜のお前。」
ラグナは肩をすくめると、ヴァンの顔を覗き込んだ。
すると、ヴァンは困ったようにラグナから顔を背けて、小さな声で言った。
「・・・なるよな。」
「え?」
聞き取れなくて、ラグナは更にヴァンに顔を近づけた。それに反するように、ヴァンはますます顔を背ける。
「何だよ、ヴァン!聞こえないよ。ほら、おじさんに何でも言ってごらん!」
ラグナは、半分ヴァンを抱きかかえるようにして、無理矢理ヴァンの顔に自分の顔をくっつけた。
ラグナの長い黒髪がヴァンの頬と肩を撫でるようにあたり、ヴァンはパッと頬を赤く染めた。そして俯いたまま、小さな声で言った。
「会えなくなるよな。この戦いが終わって、元の世界に帰ったら・・・。一年に一回だけじゃなく、もうずっとラグナには会えない・・・。」
「ヴァン・・・。」
ヴァンのその言葉に、ラグナは驚いた。
抱きかかえたヴァンの身体から早鐘のような鼓動が伝わり、伏し目がちの長い睫毛はかすかに震えている。
ラグナは、その全てが愛おしいと感じた。
「まったく、ヴァンには驚かされる。そんな殺し文句聞かされて、本当に息の根止まりそうだ。」
ラグナは、ぎゅっとヴァンを抱き締めた。
そして、赤く染まったヴァンの耳に唇を寄せて囁いた。
「いいか、前に『無口な孤独君』に言ったことあるんだがな、もし俺達が同じ世界に生きてたって別れは絶対に来るんだ。」
ラグナの腕の中のヴァンが、ピクンと震えた。
それを宥めるように、ラグナはヴァンの背中を優しく撫でた。
「ものすごーく好きな人がいても、いつか別れは来る。ゆっくり言葉を並べて別れられるとも限らない。でもな、それまでの間は一緒にいるわけだろ?別れる一瞬よりずっと長くて楽しい時間じゃねえか。」
ラグナはそう言うと、ヴァンを抱く力をゆるめ、おでことおでこをコツンと合わせた。
「つまり!いつか別れるからこそだ。今のうち、わいわい騒いどくべきなんだって。」
「ラグナ、オレ・・・。」
ヴァンがおずおずと顔を上げた。
その柔らかな頬を、ラグナはちょんとつまんだ。
「ほら、笑えよ。ヴァン。お前の笑顔が、俺は一番好きなんだ。」
「・・・うん。」
ラグナに促されて、ようやく微笑んだヴァンだったが、その笑顔はいつもの太陽の明るさではなく、星のような淡い笑みだった。
そんなヴァンに、ラグナは小さく微笑み返すと、優しくキスをした。
まるで繊細な宝物に触れるように、そおっと、そおっと、柔らかく―――。



〜FIN〜


(2011/7/7)



ラグナの「別れは・・・」のセリフは、レポート「それじゃ友達できないぞ」から、引用しました。
あの「ものすごーく好きな人」って、ヴァンだよね?!って思いながら見ましたv

スコール・ファンの方には、申し訳ないです〜><



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