DDFFの篭

□ラグヴァン短編集
7ページ/15ページ



ひずみを一つ越えたところで、夜が来た。
ラグナとヴァンは野営を張ることにしたが、相変わらずヴァンの態度は硬い。
(なーんか、調子が出ないな。)
ライトニングに呆れられながらも、なんだかんだヴァンとじゃれ合うのは意外に楽しかったのだと、ラグナは苦笑した。
「なに笑ってんの?」
ヴァンが、焚き火の向こう側から口を尖らせてジロリと見た。
ラグナは、肩をすくめながら返事した。
「いや〜、ヴァンが静かだと調子が狂うと思ってさ。なんか悩み事でもあるの?」
すると、たちまちヴァンは顔を赤くした。
「オレだって、静かな時もあるよ!それに、別に悩んでなんか、あんなこと気にしてなんかないからな!」
「あんなこと?」
「あっ、違う、あんなことってのは、違うからな。この前のことじゃないからな!」
「この前って?」
「ああっ!しまった。だから、えーと・・・とにかく違うって!」
「ヴァン君?」
「だから、キスのことじゃない!あっ!」


あっさり語るに落ちたヴァンに、ラグナは苦笑した。やっぱりヴァンは、この間のキスを気にしていたのだ。
茹蛸のように全身真っ赤になって下を向いてしまったヴァンに、ラグナはそっと近付いた。
「ヴァン。」
声をかければ、ヴァンはビクリと身体を震わせた。
「ラグナが悪いんだからな。オレに、あんなことするから・・・。」
俯いたまま、小さな声で言う。
「そうだな、俺のせいだ。悪かったな。」
隣に腰を下ろしながら、ラグナは謝った。
「記憶がないから分かんないけど、もしかしたら、オレの初めてのチュウだったかも知れないんだぞ。」
ヴァンは拗ねたような口ぶりで、更に文句を言った。
「そうか。こんなおじさんが相手で、それも悪かったな。」
ラグナは、俯いたヴァンの頭に手を置いて、なだめるように軽くぽんぽんと叩いた。
「ほんとだよ。最悪だよ。」
ヴァンがポツリと言った。
その文句に、ラグナは肩をすくめた。
「最悪って言いすぎじゃないのー?」
たちまちヴァンがジロリと睨む。ラグナは、また大袈裟に肩をすくめた。
「はいはい、すみませんでした。ま、でもさ、元の世界に帰れたら、この世界のことは忘れてしまうかもしれないんだ。もうちょっとの辛抱って言うか、我慢しろよな?」
その言葉に、ヴァンがびっくりしたように顔を上げた。
「忘れる?忘れてしまうのかな?この世界のこと。」
「う〜ん、よくは分からんが、忘れるんじゃないのか、多分。」
ラグナの言葉に、ヴァンは複雑な顔になった。じっと、大きな空色の瞳でラグナを見つめる。
「何だよ、ヴァン。」
怪訝な顔で尋ねるラグナに、ヴァンは真剣な口調で答えた。
「オレは、忘れない。というか、忘れたくない。この世界も、あんたのことも全部。」
「ヴァン・・・。」
ラグナは、ヴァンの言葉に胸をつかれた。少年の一途な瞳が、痛いほどだ。
(わかってんのかね、こいつは。自分が言った意味を?)
ラグナは、内心胸を波立たせながらヴァンを見た。
「それは、この間のキスも含めて、か?」
その意地悪な質問に、ヴァンはパッと顔を赤く染めたが、俯きはしなかった。
「ああ、そうだよ。だから、あんたも忘れんなよ。この世界のことも、オレのことも全部。」



(まいった。)
それが、ラグナの正直な気持ちだった。
あの時と同じ様に、ヴァンの澄んだ空色の瞳の中に、戸惑う自分の顔が映っている。
空を愛する少年は、その空のような自由奔放な魅力で、ぐいぐいと自分を惹き付けてやまない。
(だったら、俺も迷うのはやめにするか。)
ふっと、ラグナは肩の力を抜いて笑った。
そして、隣のヴァンの肩に優しく手を回して引き寄せた。
「なら、ちゃんと忘れないようにしとかないとな。」
そう言うとラグナは、ヴァンが何か文句を言う前に、素早く唇を重ねた。




〜FIN〜


(2011/5/20)

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ