DDFFの篭

□ラグヴァン短編集
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* A Moonlight Trick *



それを見つけたのは、まったくの偶然からだった。

ラグナの先導で聖域を目指すライトニング一行は、遠回りの道を迷いながら進んでいた。
「なあ。この道、どう考えても遠回りじゃないか?」
散々、歩き回わされた後に、ヴァンが堪え切れずに口を尖らせて言った。
「う〜ん、残念ながら遠回りだったねぇ。」
ひょいと肩をすくめて、ラグナが人ごとのように言った。
思わず皆の口から溜め息が漏れる。
「ちょっとは、反省しろよな!」
ヴァンが頬を膨らませて、ラグナの肩を小突いた。それは軽い力だった。
ほんの少し突いただけ。
だがその時、ラグナの足がつった。
「あ、足つったぁ?!」
フラフラとよろけて、ラグナは側の大きな岩に手をついた。すると、その岩がグラリと動いた。
「わ、なんだ?!」
驚くラグナの前で、動き出した岩は前方の森の木々を薙ぎ倒しながら、地響きをたてて転がって行った。
もうもうと立ち上がる砂煙りが引いた後には、一筋の開いた視界。
「また派手にやったものだな。」
ラグナを助け起こしながら、カインは苦笑した。
「今のは、俺だけのせいじゃないだろう?」
そうラグナが答えれば、たちまち後ろでヴァンが口を尖らせた。
「オレのせいでもないからな!」
すると、深い溜め息をつきながら、ライトニングが苦々しそうに言った。
「いずれにせよ、お前達が絡むとロクなことがないのは確かだ。」
ヴァンとラグナが、その言葉に反論するより早く、ユウナが慌てて中に割って入った。
「そんなことより、これ放っておいてイイのかな?あの岩、随分先まで転がって行ったけど。」
「そうよね。転がった先に誰かいたら、大怪我してるかもね。」
そう言って、ティファも心配そうに森の奥を覗きこんだ。
「イミテーションが倒せたなら、ラッキーだけどな。心配なら、行ってみりゃイイじゃん。」
ヴァンが事もなげに言って、フットワーク軽く森に入って行った。
「あ、ヴァン!」
慌ててティファが止めようとしたが、ヴァンの姿は既に森の奥へと消えた後だった。
ライトニングが、呆れたように大きな溜め息をついて、一行は仕方なく森の中へと入って行った。



「ヴァ〜ン、返事して!どこにいるの?」
ティファとユウナの呼びかけに、森の奥からヴァンの明るい声が返った。
「こっち、こっち!早く来いよ、イイもん見つけたから!」
その声に導かれて、一同が森の奥に進むと、ヴァンは止まった大岩の横に立って手を振っていた。
「ヴァン君、勝手に一人で行ったらダメでしょう?」
ラグナのお説教に、ヴァンはうるさそうに顔をしかめた。
「それより、こっち来いよ。すごいんだって!」
興奮気味のヴァンに何事かと一同が近づくと、岩が止まった先には、大人が両手を広げたくらいの小さな泉があった。そして、フワリと暖かい湯気が、皆の顔にかかった。
「何これ?もしかして、温泉‥‥?」
ティファの言葉に、ヴァンは笑顔で頷いた。
「当たり!よかったな、みんな。今日は久しぶりに風呂に入れるぞ。」
満面の笑みのヴァンを前に、一同は複雑な顔を見合わせた。

こんな戦いの最中に、何を呑気なことを言っているのだ?

―――と、怒鳴ってやりたいセリフは、ヴァンの無邪気な笑顔の前に消え失せる。
「まあ、ヴァン君の言う通り、たまには温泉でのんびりもイイんじゃない?」
ラグナのその言葉に、一同は仕方なさそうに肩をすくめた。



こうして、ライトニング一行は今夜の野営を温泉の近くに張ることになった。
そして、「レディーファーストでどうぞ」とラグナに勧められ、ライトニング三人は温泉に入った。
渋々であったものの、いつものように慌ただしく水浴びをするのと違って、湯につかり身体をほぐすのは正直気持ちよかった。
「あ〜、温泉で温まったねぇ。」
素直に笑うユウナに、ティファも頷いた。
「ほんとだね。ヴァンの言う通り、たまにはこんな風にリラックスするのも良かったかも。」
「あいつらは、常にリラックスし過ぎだがな。」
相変わらず、ライトニングが辛辣に言った。
だが、ユウナとティファは顔を見合わせて、クスクスと笑った。
「なんだ?」
憮然とするライトニングに、ティファが悪戯っぽく言った。
「ライトは肩に力入り過ぎかもよ。」
「そんなことはない!ただ私は、‥‥」
むきになって言い返そうとして、ライトニングはハッとした。そして、バツが悪そうに言葉を切った。
そんなライトニングに、ユウナが笑って言った。
「分かればいいッス。」



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