DDFFの篭

□ラグヴァン短編集
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【バレンタインSS】

* Heartbeat *


暖かな日差しが降り注ぐ昼下がり、珍しく戦闘メンバーをはずれたヴァンは、草原でひとり寝転んでいた。
空を流れる雲の動きは速く、頬に当たる風が心地よかった。
そこへ、ラグナが足取り軽く近付いた。
「ヴァ〜ン君v」
ハッピーオーラ全開でヴァンに呼びかけたラグナに、ヴァンは不信感全開で跳ね起きた。
「なんだよ、ラグナ。不気味なほど、ご機嫌だな。」
そんな失礼なヴァンの言葉も、既に免疫がついたラグナは一向に気にせず隣に座った。
「今日って、なんの日か知ってるか?」
「いや、知らないけど。」
いつでも逃げれるように、ヴァンは半分腰を浮かせながら答えた。
そんなヴァンの前に、「じゃーん」と自分で効果音をつけながら、ラグナはチョコレートの箱を差し出した。
「おおっ、チョコじゃん!すげー!」
途端に目をキラキラさせたヴァンに、ラグナはにっこりと微笑んだ。
「そ、モーグリショップの限定品。ヴァンにあげるよ。」
「いいの?!」
「もちろん。ヴァンのために買ったんだからな。」
「サンキュー、ラグナ!」
「どういたしまして。」
嬉々としてチョコを食べ始めたヴァンを、ラグナは隣でニコニコしながら眺めた。
神々の戦いに呼ばれ、殺伐とした日々を送る自分達だが、ヴァンの無邪気な笑顔はオアシスのようにラグナの心を潤した。


「そういえばさ、さっきの『なんの日』って何だったの?」
チョコを頬張りながら、ヴァンが尋ねた。
「ああ、あれ。これを買う時にモーグリに教えてもらったんだ。今日は”バレンタインディ”って言って、愛の告白をする日らしいよ。」
「あ、愛のこくはくぅ〜?」
ヴァンはチョコを食べる手をとめて、びっくりしたように目を見開いた。
するとラグナは、悪戯っぽくウインクしながら頷いた。
「そ。だから、これは俺のヴァンへの愛のプレゼント。心して食ってくれよな?」
「そんな・・・。もっと早く言ってよ、そういうことは・・・。」
頬を赤くして、ヴァンは俯いてしまった。
そして、半分食べてしまったチョコレートの箱を、ずいっとラグナに差し出した。


「え?ヴァン、もう食べないの?」
コクリと無言で頷くヴァンに、ラグナは呆然と箱を受け取った。
「そっか、要らないか。やー、返品されちゃったなー。俺の愛。」
落胆した思いを、ラグナはわざと明るい調子で笑い飛ばした。
途端に、ヴァンは慌てたように顔を上げた。
「ちがう!そうじゃない、ラグナ!」
「いいって。ムリすんな、ヴァン。」
ラグナは顔を背けながら、その場を立ち去ろうと急いで立ち上がった。
『愛の告白』と言ったチョコが要らないということは、拒絶を意味していた。今更、なぐさめなど聞きたくなかった。
いつも飄々としているラグナだが、この一撃はかなり堪えた。


すると、その背中にヴァンが飛びつくようにしがみついた。
「ちがうよ、ラグナ。勘違いすんなよ。」
ラグナの背中におでこを擦りつけながら、ヴァンは言った。
「ヴァン・・・?」
「だって、これモーグリショップの限定品なんだろ?だったら、もう売り切れてオレ買えないじゃんか。だから、残り半分はオレからの・・・、」
そこまで言って、ヴァンは恥ずかしそうに言葉に詰まった。
ラグナは、腹に回されたヴァンの手をそっと握ると言った。
「オレからの何?ヴァン、言ってくれよ。」
「わかるだろ、言わなくても。」
ヴァンは恥ずかしそうに、更にぎゅうぎゅうとおでこをラグナの背中に押し付けた。
「うん、わかる。だけど、せっかくのバレンタインディだ。言ってくれ、ヴァン。」
ラグナは、背中から伝わるヴァンの早い鼓動に、微笑みながら言った。
「もう、ラグナの意地悪!エロおやじ!方向オンチ!」
悔しそうに叫ぶヴァンに、ラグナは楽しげに笑った。
「方向オンチは、今関係ないだろ?」
「う・・・。」
「ヴァン?」
促されるように声をかけられて、ヴァンはコクンと息を飲んだ。そして、小さな声でそっと呟いた。
「・・・好きだよ、ラグナ。」


その時、まるでその声をかき消すように、草原をざぁっと強い風が吹き渡った。
だが、ラグナにはしっかりとヴァンの声は届いていた。何より、背中越しに伝わるその温もりと鼓動が、ヴァンの思いを伝えていたからだった。




〜FIN〜



(2012/2/10)



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