DDFFの篭

□ラグヴァン短編集
10ページ/15ページ



* My Sweet Baby *



「もう、いいよ!ラグナなんて大キライなんだからなっ!」


そうヴァンの声が聖域いっぱいに響き渡った時、不幸なことに全戦士がその場に居合わせていた。
バッツとジタンは興味津々で、すぐに声のした方に飛び出した。スコールとオニオンは、聞こえなかったふりをしてソッポを向いた。
ユウナとティファとライトニングは非難の眼差しを、フリオニールとカインとセシルは憐れみの眼差しをラグナに向けた。
そしてウォーリアとジェクトは、顔を見合わせて深々と溜め息を一つこぼした。


ラグナはヴァンが走り去った方を呆然と見ていたが、痛い程の皆の視線に頭をかきながら振り返った。
「やれやれ、嫌われちまったな―!」
殊更明るい声で言うラグナに、ジェクトが年の功で話しかけた。
「何やらかしたんだよ、ラグナ?子猫ちゃんは走っていっちまったぜ。」
その質問に、ラグナは肩をすくめて両の手を広げた。
「なーんか、俺にもよく分からないんだよね―。ヴァンが明日の戦闘が同じ班だって、話しかけてきて・・・。」
ラグナは先ほどのヴァンとの会話を思い出しながら、ジェクトに説明した。


「なあ、ラグナ。明日オレ達一緒の班だって。」
食事の後で、そう嬉しそうに話しかけてきたヴァンに、ラグナはニッコリと微笑み返した。
「そうか。なら、チーム組もうぜ。ヴァンは俺のアシストしてくれよ。」
「オレがアシスト役なのか?」
少し不満げなヴァンに、ラグナは自信たっぷりに言った。
「たまには後ろから黙って見てろよ、俺の男気ってヤツを!」
「大丈夫かよ?」
「この俺に任せなさ〜い!」
ラグナが胸を叩いてそう言い切ると、ヴァンは笑いながら頷いた。
「わかった。じゃあ、オレがアシストしてやるから、大型飛空艇に乗ったつもりでいろよな。」
「ありがとな、ヴァン。頼りにしてるぜ。」
そう言ってラグナはヴァンの肩に手を置いた。ニコニコと自分を見上げるヴァンの笑顔に、ラグナは顔も口元も緩んだ。
そしてつい、何気ないからかいの言葉が口から滑り出てしまったのだ。


「でも墜落しないでくれよ。」


その途端、ヴァンの顔が不機嫌に歪んだ。
「なんだよ、ラグナ。オレが信用できないって言うのか?」
突然のヴァンの不機嫌に、ラグナは慌てて手を顔の前で振った。
「違う違う、信用してるって!でも、猿も木から落ちるって言うだろ?」
そのフォローに、ヴァンはますます頬を膨らませた。
「猿?オレが猿だって言うのか?!」
「あ―、違うって!それはものの例え。ヴァンは猿より子犬みたいだもんな。」
「今度は犬?オレはペットじゃないぞ!」
「だから、誰もそんなこと言ってないって!」
「今言ったじゃんか!」
「ヴァン君?もう、なんでわかんないかな―。」
どんどん誤解の深みにはまりこんで行く会話にラグナが頭を抱えた時、ヴァンが怒りで顔を真っ赤にして冒頭の台詞を叫んだのだった。



「なるほどな。」
ジェクトは笑いを堪えながら、ラグナの肩を気の毒そうに叩いた。
すると、後ろからライトニングの尖った声が飛んだ。
「とにかくお前の責任だ、ラグナ。夜に一人で聖域を出て、何かあったらどうする?すぐにヴァンを連れ戻して来い。」
「はい、はい。言われなくても行きますよ。」
ラグナは頭をかきながら、のそりと歩き出した。その背中に更にライトニングの声が飛んだ。
「ちゃんとヴァンと仲直りして帰って来るんだぞ!」
「はい、はい。」
振り返らずに手を上げて答えるラグナに、ライトニングは溜め息をついた。
そんなライトニングに、ユウナが可笑しそうに笑いながら言った。
「大丈夫だよ、ライト。ヴァンと仲直りしなかったら、ラグナは帰って来れないッス。」
訝しげに小首を傾げたライトニングに、ティファが笑いながら耳打ちした。
「ラグナ一人だったら、迷って帰って来れないでしょ?」
「まったく世話のやける・・・。」
ライトニングはこめかみを押さえながら、頭を振った。



そんな三人の無邪気な会話を背中で聞きながら、ジェクトは小さくなるラグナに呟いた。
「これで心おきなくゆっくり朝帰りができるな、ラグナ。ハメ外し過ぎんなよ。」
その途端に、ラグナが大きなくしゃみをした。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ