秘密の篭(R-18)

□Love in the Dark
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心臓がガンガンと激しく鼓動を打つのをヴァンは感じた。
言いようのない恐怖に身体が強張る。
その恐怖を押し隠してヴァンは瞳に力を込め、ジュールを射殺さんばかりに睨みつけた。
しかしジュールは、ヴァンのその厳しい視線を何食わぬ顔で受け止めた。そして、するりと手品のように氷の入ったガラスの器をヴァンの顔の前に取り出した。
カラリと涼しげな音が部屋に響く。
その音に、先ほどのジュールの指先の冷たさはこのせいだったのかとヴァンは頭の片隅で思った。



「ねえ、少年。喉が焼け付くように渇いているだろう?」
口元だけを吊り上げるような笑みを浮かべて、ジュールは氷をひとつ手に取った。
「薬の副作用なのさ。意識と感覚を残して身体の自由を奪う。便利な薬だけど、喉の渇きが半端ない。ま、どんなことにも作用反作用はあるからね。」
ジュールはこの場にそぐわないのどかな口調で言うと、いきなりヴァンの顎を掴んだ。あっと驚いて反射的に口を開けたヴァンに、すかさずジュールは氷を押し込んだ。
「ぐっ・・・!」
吐き出そうとしても、ジュールは氷を押し込んだ手でそのままヴァンの口を塞いで放さない。
抗おうにも、力の入らない身体ではその手を押しのけることはできなかった。
「んっ、んっ、ん・・・!」
苦しげなうめき声を上げながら、やがてヴァンは諦めて身体の力を抜いた。
ゆっくりと咥内で解けた氷が、渇いた喉を潤していく。
同時に喉のひりつくような痛みが和らいで、ヴァンは小さくなっていく氷を舌の上で転がして溶かして飲み込んだ。
「気に入ったようだね。」
ヴァンの口を塞いでいた手を放して、ジュールは微笑みながらまたひとつ氷を手に取った。
「ほら、もうひとつ。」
ヴァンはためらいながらも、唇に押し当てられた氷を素直に口に含んだ。
「そうだ、いい子だ。」
ジュールの瞳が猫のように細められる。
ヴァンは口の中で溶けていく氷をこくんと喉を鳴らして飲み込んだ。
喉元を過ぎる冷たい感覚が、渇いた砂のようだったヴァンの喉を潤していく。だが、それなのに何故か更なる渇きをヴァンは覚えた。



「もっと欲しくなるだろう?」
ジュールの声にヴァンはハッとした。
「喉だけじゃない。身体中、水分が欲しくてたまらなくなるのさ。」
ヴァンは再び身体を恐怖で強張らせた。
そして力一杯ジュールを睨みつけながら、なんとか身体を動かそうと試みた。
だが、ヴァンの身体はわずかに身じろぎしただけで、相変わらず指一本自由にはならなかった。
ジュールはヴァンがあがく様子を、更に目を細めながら見詰めた。口元に張り付いた笑み以外、何の表情もないジュールはひどく不気味だった。
ジュールはカラリと涼しげな音を立てて氷をつまみ上げた。
ヴァンは口元を必死に引き結んで、再び氷を口に入れられないよう拒む姿勢を取った。
すると、ジュールは可笑しそうにくつくつと笑った。
「もういらないのかい?さっきはあんなに可愛く食べたのに。」
からかうように言われて、ヴァンの頬に朱が差した。
悔しそうに唇を噛むヴァンに、ジュールはゆっくりと身体を寄せた。
そして、手にした氷をヴァンの胸の上で握り締めた。手の熱で溶けた氷の水滴が、つつっとジュールの腕を伝い、肘の所で今にも垂れそうな滴となった。



その滴をヴァンが目を見開いて見詰める中、ジュールはそっと耳元に囁いた。
「渇ききった身体に水分が与えられるとね、」
ジュールの言葉に呼応するように、滴がヴァンのはだけられた胸元にポタリと落ちた。
その瞬間、まるで感電したかのようにヴァンの身体が跳ねた。
「あっ、ああっ・・・!」
ヴァンは細かく身体を震わせながら、悲鳴を上げた。
ジュールはそんなヴァンの様子を満足げに見ると、言葉を続けた。
「いつも以上に感じてしまう淫らな身体になる。そういう媚薬なんだよ。」



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