四の篭(拍手、イベント)

□2013年〜 Web拍手文
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 ■ 単なコト ■



「好き」

たった二文字の言葉。
口にすれば一瞬のことで、きっと簡単なことなのに、どうして言えないのだろう?

「大好き」

口に出来ないうちに、どんどん思いは膨らんで。

「好き、好き、大好き」

その気持ちで、もう心はいっぱい。
思いの強さに目が眩み、溺れそうになる。




「ごちそうさま・・・。」
皿に半分以上お肉を残したまま立ち上がったヴァンに、仲間達は驚きの目を向けた。
「ヴァン、お腹でも痛いの?」
幼なじみの少女は、お下げを揺らしてヴァンの顔を覗き込んだ。
「違うよ、大丈夫。」
痛いのはお腹ではなく胸だと思いながら、ヴァンは首を振った。
「でも、・・・」
と尚も言いかけるパンネロを振り切って、ヴァンは足早に宿の食堂を後にした。
そのまま部屋に戻らず宿から飛び出し、ヴァンは一人夜の街を歩いた。

港があるこの町は、夜には潮風が冷たく吹き渡る。
ヴァンは剥き出しの腕をさすりながら、トボトボとあてどもなく歩いた。
どれくらい歩いただろう、不意に磯の香りが強くなって顔を上げると、いつの間にかヴァンは宿から遠く離れた港にたどり着いていた。
すでに人気の消えた夜の港を、ヴァンは物珍しそうに見ながら海へと近付いた。
そして防波堤に座り海に向かって足を突き出すと、ヴァンは小さな子供みたいにぶらぶら足を揺らした。


不安で頼りない足元は、まるで今の自分と同じ。
ヴァンの唇から、深い溜め息が漏れた。
夜風は冷たく目の前に広がる海も暗く重たげで、まるで底などないように見えた。
ここになら、胸に抱え込んだ行き場のない思いを吐き出せるかもしれない。
そう思って、ヴァンは小さな声でそっとつぶやいた。


「好きだよ、バルフレア。大好き。」


ヴァンの唇からこぼれ落ちた思いは、波間をゆらゆらと漂って暗い海の底へと静かに沈んでいった。



〜FIN〜


(2013年4月)


未満な二人の、ヴァン片思いに悩むの図でした。
きっとバルフレアは、ヴァンの思いに気付いているくせに意地悪なのでわざと冷たくしたりします。好きな子ほど苛めてしまうガキフレア。
そのうちやりすぎてフランに怒られるに違いない(^q^)


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