四の篭(拍手、イベント)

□Web拍手 お礼SS
3ページ/3ページ



** 雨の夜の猫と子犬 **


少し開いた窓から湿った風が吹き込み、もうすぐ雨が降るとヴァンは思った。
風呂上りの濡れた髪を、ゆっくりとタオルで拭きながら窓の外を眺めていると、やがてポツポツと宿の曇ったガラス窓に雨が打ちつけられた。
そっと窓を閉めながら、ヴァンは小さく微笑んだ。
雨は子供の頃から大好きだった。砂漠の国では、雨は貴重な自然の贈り物だ。
雨が降ると、周りの大人たちは皆、うれしそうにしていた。その喜びが子供心にも伝わって、ヴァンも雨が降ると嬉しくって楽しい気持ちになった。
そして、今は―――。


ガチャリと部屋のドアが開いて、バルフレアが入ってきた。
「くそ、宿を出た途端、降ってきやがった。」
忌々しそうに、ハンカチで洋服の雨を拭いている。
「この分じゃ、明日も雨になりそうだな。王女サマに言って、出発は明後日にしてもらうか。」
バルフレアは、雨が嫌いだった。
汚れ仕事と面倒事を嫌う伊達男は、雨降りの日にわざわざ出掛けたりしない。
「アーシェはうんって言うかな?」
ヴァンは窓を向いたままで、返事をした。
「してもらうさ。雨の中を泥だらけになって進むなんざ、ごめんだね。」
バルフレアは銃のホルスターをはずしながら、自信たっぷりに言った。
「雨が嫌いなんて、バルフレアは猫みたいだな。」
笑いながらヴァンは、バルフレアの方へ振り返った。
すると、いつの間にかバルフレアは、ヴァンのすぐ後ろまで来ていた。
「子犬のお前に言われたくない。」
耳元にそう囁かれると、たくましい腕に抱き締められて唇を塞がれる。
「あ・・・、うん・・・。」
甘いキスにすぐに蕩けたようになったヴァンを、バルフレアは笑って解放すると、低く艶のある声で囁いた。
「今シャワー浴びてくるから、ちゃんと起きて待ってろよ。」
頬を赤らめて頷くヴァンに、もう一度あやすようなキスを落として、バルフレアは浴室に消えた。
その後ろ姿を潤んだ瞳で見送ると、ヴァンはまた小さく微笑んだ。


愛しい男は雨が嫌い。
雨は、その男の足を暫く自分に留めてくれる。
「だから、オレは雨が好き。」
ヴァンの小さなつぶやきは、雨に紛れて夜に溶けていった。



〜FIN〜


.
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ