二の篭(バルヴァン文)

□翼のない小鳥
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〜翼のない小鳥〜



旅の一行は、一週間のラバナスタの滞在を決めて帰郷していた。
闇雲に先を急いでも、結果はついてこない。まずは、野営続きで疲弊した体力を戻すこと、そして更なる厳しさを増す旅路に備えて、資金稼ぎを兼ねたレベル・アップが目的だった。
その点で、安全な隠れ家があり、高額なモブハントの依頼を受けれるクラン本部があるラバナスタは最適だったのである。
そんなある日、朝食をとりながらアーシェとバッシュが今日の予定を打ち合わせしていると、バルフレアが二日程フランとビュエルバに行きたいと言い出した。
「ビュエルバでオークションがあるんだ。どうしても欲しいパーツがある。」
明日の午後には帰るからと言うバルフレアに、アーシェは頷いた。
「構わないわ。今日のモブ討伐は、私とバッシュとパンネロだし、十分今回の成果は上がってるから。」
紅茶カップを口に運びながら、アーシェはOKを出した。
「うまく競り落とせると良いな。」
バッシュもバルフレアに笑顔を向けた。
テーブルの端でその会話を聞きながら、ヴァンは一人顔を上げないで黙々と食事を続けていた。やがて、皆食事を終えて席を立って行く。
「パンネロ。私達もそろそろ行きましょうか。」
「はい、アーシェ様。」
バッシュに続いてアーシェは席を立つと、パンネロを促して出掛ける準備を始めた。ガチャガチャと二人が食器を片付けていく中で、ヴァンはぐずぐずとパンをかじっていた。
「じゃあ、後片付けの残りとお留守番よろしくね。」
食堂を出るパンネロに、そう言われながら軽く背中を叩かれて、ヴァンはギクリと身体を強張らせた。


食堂に残ったのは、ヴァンとバルフレアの二人。
フランは出掛ける準備のために、既に部屋に引き上げていた。優雅な手つきで紅茶を飲むバルフレアを、ヴァンはチラリと盗み見た。
(連れて行って―――。)
という言葉が、喉まで出掛かっているのに言うことができない。
なぜなら昨日の夜、ヴァンとバルフレアはいつものように些細な事が原因でケンカをしたからだった。
(あ〜、さっさと謝ればよかった・・・。)
そう思いながらも、今更手遅れなことは分かっている。
こんなタイミングでビュエルバ行きを言い出したバルフレアに、明確な悪意を感じ取ってヴァンは顔を暗くした。フランに口添えしてもらおうかとも思ったが、それでは余りに女々しくて情けない。ヴァンは溜め息を飲み込むと、椅子から立ち上がった。
精一杯のカラ元気で、ぎこちない笑顔を浮かべてバルフレアに声をかけた。
「オレ、今日はミゲロさんの手伝いに行ってくるよ。じゃあ、気をつけて行ってこいよな。」
ヴァンは一刻も早く駆け出したいのを堪えて、ゆっくりと食堂から出て行こうとした。
「おい、ヴァン。」
その背中に、バルフレアが新聞から目を上げずに声をかけた。
「な、何?」
前を向いたまま返事をしたヴァンの声には、少しだけ甘い期待が込められていた。
「朝食の後片付け、ちゃんとしていけ。皿とカップがそのままだぞ。」
「あ・・・、ごめん。」
ヴァンは明らかに落胆した声で謝った。
(こんな時のバルフレアが、とことん意地悪なのは分かってるじゃないか―――。)
ヴァンは唇を噛み締めた。


ヴァンはのろのろとテーブルに戻ると、自分の食器をまとめて台所へ運んだ。
ガチャリと流しに置き、少し強めに水を出した。落胆が溜め息となって唇から零れ出て、悄然と肩も落ちた。
すると、その肩に上から覆いかぶさるように、長い腕が伸びてきた。
「わ、なんだよ?」
驚いて振り向いたヴァンは、後からすっぽりと自分を抱き込むように立つバルフレアにドキリとした。その澄ました端整な顔に、ヴァンは顔を赤くしながらも文句を言った。
「何してるんだよ。オレが食器洗ってるのに。」
すると、バルフレアは鼻先で笑うように言った。
「何って食器を洗ってるのさ。今日、俺は出掛ける用事があるんでな。急いでるんだ。」
「だからって、こんな・・・。」
口の中でぼそぼそと呟きながら、ヴァンは下を向いた。
後からまるで抱き締められるように身体を寄せられ、その温もりと甘い香りに包まれたら、もうつまらない意地も痩せ我慢も限界だった。
「バルフレア、ごめん・・・。」
ヴァンは、そっとバルフレアの腕に手をかけた。
「昨日はオレが悪かった、謝るよ。だから、一緒にビュエルバに連れて行って。置いてかないで・・・。」
ヴァンは背中のバルフレアに身体を預けると、泣きそうな小さな声で素直に謝って頼んだ。



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