二の篭(バルヴァン文)

□Junk Box
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 ■ イケナイ好奇心 ■



フォーン海岸を抜けて、ツィッタ大草原を進むヴァン達一行を突然の雨が襲った。
横殴りの激しい雨は視界を奪い、足元にはみるみる川のように水が流れて行く。
「あそこの遺跡に入るぞ!」
すばやく辺りを見渡したバルフレアが指差し、ヴァン達はバルフレアの言葉にしたがって崩れかけた遺跡の中へと避難した。
遺跡の中はがらんとした空洞で、薄暗くひんやりとしていた。
「あー、ひどい目にあ・・・ハックション!」
ヴァンは濡れた髪を掻き揚げて文句を言いながら、寒さに派手なくしゃみを二、三回続けてした。
他の面々も、タオルで身体を拭きながら寒さに震えている。
「雨宿りにはいいが、ここは少し冷えるな。風邪をひいちまう。」
バルフレアは顔をしかめて言った。
「な、バルフレア。火をおこしてもいいだろう?」
ヴァンは空色の瞳をくるりと動かすと、バルフレアの返事を待たずに下に落ちている枯れ木を拾い出した。
「そうだな。濡れた身体を乾かしたいしな。」
バルフレアが頷くと、ヴァンが集めた枯れ木の山に、パンネロがファイアの魔法で火をつけた。そして、ヴァンはその焚き火の中に”火の石”をいくつか投げ込んだ。
魔物の落としたこの”火の石”は、炭の役割を果たす。たちまち辺りは焚き火によって、暖かくなっていった。
「わあ、あったかいね。」
パンネロが嬉しそうに笑い、一同は焚き火の周りに集った。


すると、ヴァンは何か思いついたようにポンッと手を打った。
「そうだ。オレ、いいこと考えた!」
ヴァンはそう言うと、濡れたベストを脱いだ。
「何やってんの、ヴァン。お行儀悪い!」
パンネロが呆れたように顔をしかめたが、
「いいから見てろって。」
ヴァンは得意そうに笑いながら、赤い腰布も解いてしまった。それをベストに通し、まるで洗濯物を干すようにした。そして、辺りを見渡して程よい柱をみつけ、腰布の片方を縛りつけた。もう片方は自分で持ってベストを焚き火の上にかざした。
「な、この方が早く乾くだろ?」
「そうだけど・・・。」
パンネロが困ったように俯いたが、ヴァンは気にもとめずバッシュに笑顔を向けた。
「バッシュのベストもかけてやろうか?」
「ああ・・・、そうだな。そうしてもらおうか。」
人の良いバッシュは、ニコニコと得意そうなヴァンの笑顔に断ることができずに、ベストを脱いでヴァンの腰布にかけた。
ヴァンは、濡れた手甲もはずして腰布あらため洗濯紐にかけながら得意そうに聞いた。
「他に何か干して欲しい人いるか?バルフレアは?」
だが、バルフレアはフンと鼻で笑うと首を振った。
「いや、結構だ。」
ヴァンはその返事に少しムッとして口を尖らせたが、タオルで身体を拭くバルフレアを見て「ああ」と納得したように頷いた。
「そうだよな。あんたのそのベスト、脱ぐのすごく面倒くさそうだよな。」
ヴァンの言葉に、バルフレアは溜め息をついて言った。
「面倒くさいから脱がないんじゃなくて、こんな所で脱ぐのが嫌だから脱がないんだ。」
「ふーん、じゃあ脱ぐのは面倒くさくないんだ。」
ヴァンは、バルフレアの言いたいこととは違うところに食いついた。
「お前、人の話聞いてるか?」
「聞いてるよ。でも、そのベスト後開きだよな。本当に面倒くさくない?」
呆れ顔のバルフレアに構わず、ベストをまじまじ見ながらヴァンの質問は続く。
周りのメンバーも、「また始まった」と言わんばかりに頭を抱えた。
「今までに何度も、俺が着たり脱いだりしてるとこ見てるだろうが!一回でも、俺がもたついたか?」
バルフレアは不機嫌にそう言い放った。
だが、ヴァンにはまったく通じない。
「そうなんだよなー。だから、すごいと思って。」
無邪気に返事をするヴァンに毒気を抜かれて、バルフレアは肩をすくめた。他のメンバーも「やれやれ」と苦笑いして、また焚き火に視線を戻した瞬間、ヴァンはにっこりとして言った。


「ちょっとオレ、バルフレアのベスト脱がしてみてもいい?」



雨の音と、焚き火の燃える音。
その微かな音さえも、皆の耳にはっきり聞こえた。それほど、ヴァンの言葉にその場がしーんと静まり返ったからだ。
「ちょ、ヴァン!何言ってんの?」
一番最初に我に返ったのは、パンネロだった。
頬を赤く染めながらも、幼馴染の発言をあわてて咎めた。
「えー、だって興味ない?あのベストどうなってんのか?」
ヴァンは、周りの空気がどうなったかなど気にも留めずに答えた。
「ま、何事にも好奇心旺盛なのは、ヴァンの良い所だな。」
バッシュは咳払いをしながら、さりげなくフォローする。
その隣で頬を赤く染めたアーシェが、まるで何かを追い払うように頭の上で手を振った。
フランはそんなアーシェを見てクスリと笑うと、固まって言葉を失ったままの相棒の耳元にそっと囁いた。
「脱がす楽しみを味わいたいなんて、坊やもやるわね。」
フランの言葉にバルフレアはハッと我に返り、あわてて緩みそうになる顔をわざと顰めてヴァンに怒鳴った。
「うるせー、くそガキ!俺様のベストを脱がすなんて、百年早いんだよ。」
「なんだよ、えらそーに。くそガキって言うな!」
怒鳴られてムッとしたヴァンは、口を尖らせて膨れっ面になった。そして、すっかり乾いた自分のベストを着ると遺跡の入り口に雨が止んだか見にいった。
「あー、もう雨止みそうだよ。あっちの空が明るくなってる。」
さっきの膨れっ面などたちまち吹き飛んで、笑顔でヴァンが皆に告げた。
その笑顔に小さく溜め息をつきながら、バルフレアは心の中でつぶやいた。


今度たっぷり脱がせ方を教えてやるよ。
二人っきりの時にな。



そんな邪なオーラを出すバルフレアと、無邪気に笑うヴァンを見て、フランは楽しげに長い耳を揺らした。



〜FIN〜



(2011/10/8)


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