一の篭(本編沿い)

□砂漠の夜に
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砂漠の夜に 



「盗んでください! 私を ここから!」

亡国の王女のドラマチックな台詞で始まったレイスウォール王墓へと向かう旅。
しかし、順調だったのはシュトラールで西ダルマスカ砂漠に乗りつけた所までだった。シュトラールを降りたとたん、一行の旅は過酷なものになった。
オグル・エンサは飛空艇が使えないヤクトの地。一行は広大な砂海を歩いて越えていた。

今日も距離をかせげないまま野営となり、冷え込んだ砂漠の夜に一行は震えながら眠りについた。
その中でもヴァンは、寒さに寝付けずに何度目かの寝返りをうった。
昨日までは、パンネロと抱き合って寝ていたのだ。
それなのに・・・。

「ごめん、ヴァン。わたし今日からはフランと寝るね。」
幼馴染はあっさりと美しいヴィエラに盗られてしまった。『盗られた』という言い方はおかしいかもしれないが、ヴァンにしてみたらそんな気持ちだった。
自分の旅に巻き込んでしまった幼馴染。だが、ヴァンが思った以上に彼女はしっかり者で、あっと言う間に自分の居場所を作った。
ヴァンを頼りに甘えるように抱き合って眠ったのは、旅の始めの二日だけだった。

「おら、来いよ。」
ヴァンがあれこれ考えていると、不意に手が伸びてグイっと引き寄せられた。
「うわっ!」
ヴァンは、すっぽりと隣に寝ていたバルフレアの腕の中に巻き込まれた。見かけ以上にたくましい胸に抱き寄せられて、頬が赤く染まる。
「何すんだよ。」
上目使いに睨みつけると、ニヤリと笑うバルフレアと目が合った。
その端正な顔を間近に見て、トクンと心臓が跳ねる。
「さっきから、ガサゴソうるさいんだよ。俺様が一緒に寝てやるから、とっとと寝ろ。」
「なんだよ。ガキ扱い止めろよな・・・。」
プイと頬を膨らませながらも、ヴァンはおとなしくバルフレアの腕の中に納まった。
「ガキは体温高いからな、抱き枕にちょうどいい。」
耳元で笑うバルフレアの声がして、ヴァンはまた心臓がトクンと跳ねるのを感じた。
なぜだか顔が赤くなる。それを見られたくなくて、バルフレアの胸におでこをぎゅうぎゅうと押し付けた。
「痛いだろ、アホ。」
少し呆れた声で言いながらも、バルフレアは大きな手でヴァンの背中を優しく撫でてくれた。
顔を押し付けた胸から、自分のものではない少し早い心臓の音が聞こえて、ヴァンはなんだかホッとした。
バルフレアの体温に暖められ、心臓の音が心地よい子守唄のように聞こえる。
いつしかヴァンは眠りに落ちていった。

完全に眠りに落ちる前、瞼や頬そして唇に、何か暖かくて柔らかなものが触れた気がした。
「うん・・・。」
唇に触れたその感触が心地よくて、ヴァンは眠りながらも無意識に声を漏らした。
起こしてしまったかと、バルフレアはそっとヴァンを覗き込んだ。だが、そこには気持ち良さそうに眠る顔。
くすりと笑って、バルフレアはもう一度ヴァンの唇に優しく口付けた。
暖かな身体を抱きしめて、柔らかな金糸の髪に顔を埋める。
「やばい、癖になりそうだ・・・。」
少年のぬくもりに、思わずそんな良からぬことを思う。
だが、それすらもこの心地よさを邪魔するものではなくて、バルフレアはゆっくりと瞼を閉じた。



〜FIN〜

(2010/5/14)


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