一の篭(本編沿い)

□寒い夜に
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〜 寒い夜に 〜



ゴルモア大森林を抜けると、そこは氷雪が吹きすさぶパラミナ大峡谷だった。


初めて見る雪景色に、目を見張るラバナスタ組の目の前を、疲れた様子の避難民達が何人も通り過ぎていった。
ヴァンが説明を求めるように、少し不安げな顔でバルフレアを見れば、その端正な顔に皮肉な笑みを浮かべてバルフレアは吐き捨てるように言った。
「どこかの侵略国家のせいで、ああいう難民が増えてるのさ。」
その辛らつな言葉に、ラーサーはさっと顔を紅潮させて言った。
「これ以上増やさないために、友好を訴えて大戦を防ぐんです。父は必ず平和を選びます。」
だが、そんなラーサーの言葉をバルフレアは鼻で笑った。
「必ず?たいした自信だな。」
そして、すうと目を細めて苦々しく言い捨てた。
「父親だろうが、結局他人だろ。」

顔色を失う、幼い帝国の皇子。
仲間達の非難がこめられた視線が、一斉にバルフレアに向けられた。それを無視して歩き去るバルフレアの耳に、ヴァンが黙り込んだラーサーを慰める声が聞こえた。
「あんま、気にすんなって。」
バルフレアは吹きすさぶ寒風に、身体より心が冷たく凍てついていった。
そうだ。
あの言葉は、ただの八つ当たりだ。
無邪気に父親を信じて『必ず』などと言う皇子にイラついたのだ。
バルフレアは苦い思いで眉間のしわを深くした。そして、バルフレアがもらした小さな溜め息は、冷たい北風に凍りつき消えていった。


神都ブルオミシェイスに向かう一行の行く手を、猛烈な吹雪が阻んだ。
この地方では、こういったことが珍しくないらしく、近くに簡素ながらキルティア教徒が営む宿があった。クリスタルのそばで道案内するキルティア教徒の勧めもあって、一行もそこで今夜の宿をとることにした。

宿に入った一行は、雪にまみれた装備を解いた。
石造りの建物は、風雪は防いでくれたが、どこかひんやりとして薄暗かった。文句は言えないものの、皆、寒さから口数が少なくなった。
いつもなら賑やかな年少三人も言葉少ない。どこか屈託した様子のラーサーを気遣うように、ヴァンとパンネロが両側について世話をやいていた。
質素ながら暖かい食事がすむと、一行は各自一人ずつに割り当てられた部屋へと引き上げた。
バルフレアが部屋のドアを開けるとき、三つ先の部屋の前のヴァンと目が合った。
一瞬ヴァンの唇が何か言いたげに動いた。
だが、それが音を紡いで言葉になる前に、バルフレアはすばやくドアを閉めた。



バルフレアはガランとした冷たく暗い部屋に入ると、ベッドにドサリと身を投げた。固くてひんやりとしたスプリングがギシギシと嫌な音をたてて揺れる。
バルフレアは大きく息を吐くと、目を閉じて腕で顔を覆った。
もう、うんざりだと思った。
何故今になって、とも思う。
軽い気持ちで手を出したお宝が破魔石で、それが元で旅が始まった。そして、終わりの見えない旅の行く手にも、また破魔石が見え隠れする。
己れが捨ててきたもの、逃げ出したと思っていたものから、結局何一つ解放されていなかったのだ。

もう一度、バルフレアの口から大きな溜め息が吐き出された時、こちらに向かってくる軽い足音が廊下から聞こえてきた。


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