一の篭(本編沿い)

□Time Goes By・・・
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Time Goes By・・・



フランの故郷であるエルトの里。
ヴァン達一行は、森の結界を解いてもらうため立ち寄ったのだが、歓迎されてないことは一目瞭然だった。
あからさまに向けられる敵意と警戒の眼差し。
それと冷たく言い放たれる「立ち去れ」の言葉。
ヴァンは心が重く沈んでいくのを感じた。
「大丈夫?」
パンネロがそっとヴァンの腕に手をかけた。
その手の温もりに、一瞬心が揺れたヴァンだったが、振り返ると笑って答えた。
「大丈夫!必ずミュリンは見つけるって!」
「うん・・・。」
頷いたパンネロだったが、寂しそうに目を伏せた。
心の中で言えなかった言葉をつぶやく。

(違うよ、ヴァンが大丈夫か心配なんだよ。だって、ここは・・・、まるでレックスが帰って来た時のラバナスタみたいだもの・・・。)

小さく溜め息をつくパンネロを、バルフレアは後ろから黙って見ていた。


ヴァン達の捜索も空しく、里の中にはミュリンはいなかった。そして、フランは里の長ヨーテと対峙することとなった。
より一層、里のヴィエラ達の視線が冷たくなる。
「ヨーテ、あの子はどこ?」
問うフランにヨーテは嘲笑を投げかけた。
「なぜ尋ねる?森の声が聞こえんのか。人間と交わった報いだな。森を捨てたヴィエラは、もはやヴィエラではない。――――森を去ったミュリンもな。」
その言葉にハッとしたフランの後ろから、バルフレアが苦々しく言った。
「だから見捨てようってのか。」
ヨーテは、フランとバルフレアを正面から見た。
「里の総意だ。ヴィエラは森と共にあらねばならん。それが森の声であり、われらの掟だ。」
周りのヴィエラ達が、静かに頷く。

「じゃあ、そっちは勝手に掟を守ってろよ。こっちが勝手に助けるんなら、文句ないだろ。」

そんな中で発せられたヴァンのその言葉は、怒りよりも哀しみに満ちていた。
エルトの長ヨーテは、その涼しげな瞳をわずかに細めて、その若きヒュムを見た。森の緑とは違う、空の蒼が憂いを含んでヨーテを見つめていた。
ヨーテは静かに風を纏った。
「ミュリンは森を去って西へ向かい――――鉄をまとうヒュムどもの窖をさまよっている。それが森のささやきだ。」
そう言ってヨーテは踵を返した。その背に、フランは追いすがるように言った。
「ヴィエラが森の一部だとしても、森はヴィエラのすべてではないわ。」

「その言葉、50年前にも聞いたな。」
ヨーテは振り返らずに言い捨てて、立ち去った。


エルトの里を立ち去る一行は、重く沈んだムードに包まれていた。
いつもなら、真っ先に行動するヴァンも俯いて皆の後ろを歩いている。
「やるじゃないか。あんなのから情報聞き出すなんて。」
そんなバルフレアの軽口にも、力なく頷いただけだった。
一行が里の入り口まで来た時、先ほど里に入る時に一緒に入ってきたモーグリ達が声をかけてきた。
「見覚えがある顔だと思ったら、やっぱりクポ。リヴァイアサンでは助かったクポ。安くするから、品物見て行ってほしいクポ。」
「そうね・・・。少し装備を整えましょうか。三十分ほど休憩します。」
遠慮がちに、そうアーシェが決めて一行は頷いた。
すっとフランは皆から離れて、一人背を向けた。

その後ろ姿に、誰も声をかけることができずにいた。


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