一の篭(本編沿い)

□オズモーネ四部作
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** 折れた翼  **



ガリフの地ジャハラを目指してラバナスタを出発した一行は、雨季のギーザ草原を難渋しながら進んだ。
ようやくオズモーネ平原にたどり着いた頃には、皆雨でぐっしょりと濡れ、酷い有様だった。
「とりあえず、ここで火を熾して身体を温めよう。」
バルフレアが、雨で落ちた前髪を掻き揚げながら言い、一行は雨で重たくなった装備を解いた。
「大蛙のタタリなんじゃないの?」
パンネロは髪をタオルで拭きながら、ヴァンのわき腹を小突いた。
「もう、勘弁してよ〜。」
ヴァンが情けない顔で言うのを、バッシュが笑ってなだめた。
「まあ、亡霊とはいえ人助けをしたんだから、パンネロももう許してやってくれないか。」
「は〜い、おじ様。」
パンネロはそう言うと、肩をすくめてチロリと悪戯っぽく舌を出した。
ふうと、ため息をついたヴァンは濡れた身体をタオルで拭きながら、あたりを見渡した。ギーザ草原を越えて、ここまで来るのは初めてだった。見慣れない景色に興味が沸く。
そして、ふとある物に目がとまった。
「あ、あれは・・・!」
慌ててヴァンは後ろを振り返って、バルフレアを探した。
「気付いたか?」
ヴァンの視線を受け止めて、バルフレアはニヤリと笑った。
「なあ、あれって・・・、」
「そう、落ちた飛空艇の残骸だ。」
そう教えて、バルフレアはヴァンの後ろに立つと、手にしたタオルで荒っぽく金糸の髪をゴシゴシ拭いた。
「痛いよ、バルフレア!」
口を尖らせて文句を言うヴァンに、ふんと鼻で笑ってバルフレアは言った。
「どうせ、アレを見に行きたいんだろ?なら、早く身体を拭いて乾かせ。」
「あ、そうか。わかった!」
途端に機嫌を直して、身体を焚き火にかざして乾かすヴァンにバルフレアは苦笑した。
無邪気なお子様は、呆れるくらい素直で明るい。
二人のやりとりを聞いていたアーシェも、苦笑いで「少しだけよ」と念を押して、見に行く許可を与えた。



「うわ、すごいな・・・!」
バルフレアと飛空艇の残骸に近付いたヴァンは、その無惨だが壮大な姿にため息をついた。
遠くからは、まるでオブジェのように見えた飛空艇は、真っ二つに機体が折れ、尾翼が地面に垂直に突き刺さっている。そっと手で触れてみると、苔むした機体には無数の銃弾の痕が残っていた。
「どんな人達が乗っていたんだろうな。」
空の戦いに散って行った英霊達に、ヴァンは思いを馳せた。
「オレと同じ歳の兵士もいたんだろうか・・・。」
兄レックスも、自分と同じ歳に志願して兵士になった。そう思い、ヴァンは目を伏せた。
そんなヴァンの頭にバルフレアは大きな手をのせて、ぽんぽんと軽く叩いた。
「くそガキが、柄にもなくセンチメンタルだな。」
「何だよ。オレだって、たまにはそういう気持ちになる時もあるんだよ!」
たちまち口を尖らすヴァンに、バルフレアは皮肉な笑みを浮かべた。
「全然似合わない、けどな。」
「う、うるさいな!似合う、似合わないは関係ないだろ!」
さっきまでの感傷的な気分は吹き飛んで、すっかりいつものヴァンの様子にバルフレアは笑みをもらした。
「そう、そう。お前はそうやって喚いてろ。その方が、うんと似合ってる。」
「なんだよー!絶対バカにしてるだろ、オレのことー!」
騒ぐヴァンを軽くあしらいながら、バルフレアは小さくため息をついた。
時折ヴァンに影を落とす絶対的な存在の兄――――レックスが、たまらなく不快で気に入らなかったのだ。


ヴァンは尚もブツブツと文句を言いながら、機体を見て回っていたが、ふと真面目な顔でバルフレアの方を振り返って言った。
「なあ、シュトラールは大丈夫だよな。こんな風に・・・・、」
ヴァンは息を飲むと、言いよどんで言葉を切った。
そんなヴァンのおでこを、バルフレアの長い指が弾く。
「バカ!シュトラールがこんな無様な姿になるか!誰の艇だと思ってんだ?」
自信たっぷりにそう言い切ると、バルフレアは腰に手を当て口元に不敵な笑みを浮かべた。
その姿は、あの王宮の宝物庫で初めて会った時の様に、恐ろしく気障で悔しいほど格好良かった。ヴァンは痛みにおでこを押さえながらも、嬉しさで笑顔になった。
「うん、そうだよな。『最速の空賊』なんだもんな、あんた!」
その言葉にニヤリと笑い返し、バルフレアはヴァンの髪をくしゃりと撫でた。
「へへ・・・。」
ヴァンは鼻の下をこすりながら、太陽のような笑顔を向けてくる。



その笑顔があるなら。
その瞳が俺だけを見つめているなら。
翼は折れることなく、落ちることなく、何処までだって飛べるかもしれない。

そう心の中で思いながら、バルフレアはヴァンを促して仲間の元へと戻って行った。




〜FIN〜

(2010/7/10)




ガリフの里に行くつもりが、オズモーネ平原で道草。
だって、あのいっぱい落ちた飛空艇が気になって!
あれは、「いつか」は解りませんが、飛空戦の名残りだそうです。
中に入れて、レアなお宝発見!なんてできれば良かったのになぁ・・・(-_-;)

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