一の篭(本編沿い)

□誰かの願いが叶うには・・・
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** 誰かの願いが叶うには・・・ **



ヴァンは疲れていた。
もう、くったくただった。指1本動かしたくないとは、このことなのだと思った。
まだまだ若さはじける17歳で、こんな思いをしようとは・・・。
それも、これも、あの人のせいだった。



ガリフの里に旅立つ前、一行はラバナスタで休養をとっていた。
そんなある日、隠れ家からムスル・バザーに出たヴァンは、顔なじみの商人に会った。挨拶がてら、立ち話をしていると彼からチグリの話を聞いた。チグリは、ネブラ河沿いの集落に住む少年で、前に会ったことがある。
(確か、父親が渡し舟の船頭をしていると言ったな・・・。)
と、ヴァンは思い出した。
すると商人の話では、その父親が北岸から帰ってこないのでチグリが寂しい思いをしていると言う。
「わしが、ラバナスタに行くと言ったら、お前さんによろしくと言ってたぞ。」
そう言われては、子供好きでお節介焼きのヴァンはじっとしてられない。
(チグリに会いに行きたい。会って慰めてやりたい!)
そう思い立ってしまった。


「冗談でしょ?」
こっそりパンネロにその思いを打ち明けたヴァンは、ジロリと睨まれた。
「なんで?小さな子が寂しい思いしてるんだぜ?」
パンネロだって解るだろ?と言えば、更に冷たい目で睨まれた。
「いい?ヴァン。昨日、大蛙討伐でアーシェ様とおじ様をあんな目に合わせたのよ?
それで、今日はネブラ河へ行くって言うの?また何かあったらどうするの?
チグリには悪いけど、今はやめておくべきよ。」
年下の幼馴染に理路整然と諭されて、ヴァンはぐっと詰まった。
「・・・わかったよ。」
しぶしぶ頷くヴァン。だが、パンネロはそんなヴァンの顔を覗き込むと言った。
「こっそり行こう・・・なんて考えてもダメだからね!」
図星をさされて、ヴァンは顔を赤くした。
「わかってるよ!」
逆切れして、怒鳴るように言うと、ヴァンは隠れ家を飛び出した。
「あ、ヴァン!本当にダメだからね!」
背中にかかるパンネロの声を振り切るように走ると、ヴァンは南門のゲートクリスタルを目指した。


「来ちゃった・・・!」
ヴァンはゲートクリスタルから、ネブラ河沿いの集落にテレポしてきた。
(会ってちょっと元気づけるだけ、すぐ帰るから。)
心の中で、そんな言い訳をしながら、チグリの姿を探す。だが、ヴァンがチグリを見つける前に、ある人物がヴァンを目に留めた。
「あら、君は・・・!」
「あ、ダントロの奥さん。」
振り返ったヴァンに、ダントロの妻はニッコリと微笑んで言った。
「ちょうど、良かったわ。また、君が来てくれないかと思ってたの!」
「へ?」
「引き受けてくれるわよね?」
「へ?」
「そう、ありがとう!やっぱり君は頼りになるわ!」
「へ?」
ヴァンが「へ?」ととぼけた返事を三回繰り返すうちに、すっかりダントロの妻は話を進めてしまった。ヴァンには、否も応もない。
そして、冒頭のようにヴァンは疲れ切った有様に陥いる羽目になったのだ。


前もそうだったが、ダントロの妻は実に人使いが荒かった。
まずは、ネブラ河でセム貝を拾わされ、次はダントロのキャンプまでネブラリンを取りに行かされた。
そして北岸に渡る必要があるからと、渡し舟を再開させるため、サボテン一家の息子探しをした。
そのおかげで、チグリとルクセラが再会できたのは、よかったのだが――――。
それから、北岸に渡り、断裂の砂地でウォーグウルフに追いかけられながら、『谷間の花のしずく』集めをさせられた。
「これで、薬集めは最後だよね?」
ぜいぜい言いながら、ヴァンはダントロの妻に確認した。もう、これ以上は無理!と思いながら。
「いろいろお世話になったわね。病人なら、ぐっすり眠っているわ。」
ダントロの妻はニッコリとヴァンに微笑んだ。
ヴァンは返事もできずに、木の根元に座りこんで、ただ疲れた笑顔で頷いた。
昼前に出発したのに、もうあたりは夕闇に包まれ始めている。
「ああ、パンネロ怒ってるだろうな・・・。」
ヴァンのお腹が切なげにぐうとなった。



「これに懲りたら、これからはお嬢ちゃんの言うこと聞くんだな。」
不意に頭の上で声がした。
「え?あ、バルフレア!」
いつの間にか、ヴァンの後ろにバルフレアが立っていた。
「なに?いつ来たの?」
すると、バルフレアはいつもの気障で、男前な顔でニヤリと笑った。
「お前が、サボテンの息子探しをしてるくらい、か?」
ヴァンはびっくりして目を丸くした。
「何だよ、それじゃあ、手伝ってくれてもよかったじゃないかっ!」
「冗談だろ?止められたくせに、勝手に飛び出してったヤツに、なんで手伝う義理がある。」
それを言われると、ヴァンはぐうの音もでない。反論できずに、力なく俯いた。
その頭の上に、ぽんとバルフレアは大きな手をのせた。
つられてヴァンが目を上げると、悪戯っぽい瞳でバルフレアが笑った。
「帰るか?」
「・・・うん。でも、お腹すいて立てない・・・。」
「たく、しょうがねぇな。ほら!」
差し出された手は、大きくて力強かった。バルフレアに抱えられて立ち上がったヴァンは、そっと後ろを振り返った。
ネブラ河に夕日が沈む中、再会できたチグリとルクセラ親子が楽しそうに話している。
砂漠の病人も、薬をのんでぐっすり寝ている。
新婚早々、離れ離れになった夫婦も無事再会できた。


「苦労したかいは、あったよな・・・?」
そっと、バルフレアの胸にもたれながらヴァンはつぶやいた。
すると隣の男は澄まして言った。
「いや、苦労するのはこれからだろう。お嬢ちゃんもアーシェもカンカンだし?」
「ええ〜〜〜っ!もう、やだぁ〜〜〜!!」
ヴァンの悲鳴が、穏やかな夕暮れのネブラ河に響き渡った。



〜FIN〜

(2010/6/30)




ヴァン苦労する!の巻きです。
なんとなく、いつも余計なことに首突っ込んで苦労してそうですよね。
それを、バルフレアは「たくっ!」って言いながら、お世話焼いてるとイイな♪

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