一の篭(本編沿い)

□王女と指輪と大蛙
1ページ/6ページ



王女と指輪と大蛙 



アーシェはひどく落ち込んでいた。
ラスラが戦死し、父王が謀殺されて、自分も死んだことにされ、地にもぐっていたこの二年間。
辛いことばかりだったが、それすらも今の胸の痛みに比べれば、まだ幸せだったと思う。
それほど、今回のウォースラの背信とその死が与えた傷は、深く重い。

(自分に力がないから・・・)

アーシェは暁の断片を握り締めながら、戦艦リヴァイアサンを打ち砕いたこの破磨石の力を思い浮かべる。

(この力があれば、私はもう何も失わなくてすむの・・・?)

レイスウォール王墓で見たラスラの残像に問うてみる。
もう一度ラスラに会いたかった。その腕に抱きしめて欲しかった。
「大丈夫だよ」と言って欲しかった。
震える指で薬指を探る。だが、もうそこには指輪はない。アーシェは唇をかみ締めながら、一人で傷に耐えていた。

どのくらい、そうしていただろう。
ふと気がつくと階下が騒がしい。どうやらヴァンとバルフレアが言い争っているらしい。
いつも、あの二人はつまらない事で言い争いをする。今日もまたそれか――――と思ったが、途切れ途切れに聞こえてくる内容に、アーシェは思わず部屋から出た。

階下の食堂では、一生懸命言いつのるヴァンに呆れるバルフレアの姿があった。
「だから、ウソじゃないって!
本当に男の人に指輪を探してくれって言われたんだ。」
「だけど、俺とフランにはそんな男、見えなかったんだぞ。」
「オレには見えたし、話もしたんだよ。」
「あそこにいたモーグリ達も、お前が一人誰もいないのにしゃべってたって言ってただろうが。
お前が見たのが幻覚じゃなければ、亡霊ってことになるぞ。」

指輪・・・亡霊・・・まるでラスラのことを言われているようで、アーシェは階下へと降りていった。
「一体、どうしたの?何の騒ぎ?」
あっと一同が驚いて振り返る。
パンネロはキッとヴァンを睨みつけた。
「ほら、ヴァンが騒ぐからアーシェ様にも聞こえちゃったじゃない!」
すっかり不貞腐れたヴァンの背中を、力いっぱいぶった。
「なんで、オレばっか・・・。」
ますます口を尖らせるヴァンだったが、ふと名案を思いついたようにパッと顔を明るくした。
「そうだ!アーシェ、明日オレとモブ討伐に行かないか?
ケロゲロスを倒して、指輪を取り戻すんだ!」

明るい笑顔のヴァンの後ろで、バッシュが慌て、パンネロは青ざめ、空賊コンビが顔を見合わせて溜め息をつくのが、アーシェに見えた。


.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ