一の篭(本編沿い)

□誰かが貴方を愛してる
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**誰かが貴方を愛してる**



軽巡洋艦シヴァを脱出した一行は、王都ラバナスタに帰り着いた。
レイスウォール王墓で、暁の断片を手に入れた後の数々の出来事は、忘れられない深い傷を一行に与えた。特にアーシェはウォースラの背信と死によって、見ていられないほどの憔悴ぶりだった。
次の目的地はガリフの里に決まったが、取りあえず四日程ラバナスタに滞在して、準備と休養をとることになった。


ヴァンは、大聖堂の階段に腰掛けてぼんやりしていた。
ここでヴェインの演説を聞いて――――ふざけんなよ!と腹を立てたあの日。
今から思えば、あの日が全ての始まりだったのだ。
あの時踏み出した一歩が、自分を新たな旅へと導いてくれた。そして・・・。
ヴァンの耳に、先ほどバルフレアに言われた言葉が甦る。

「ヴァン。お前なら何が欲しい?何を探してる?」

その問いに、ヴァンは答えられなかった。
少し前まで「空賊になる!」が口癖だった。だけど、本物の空賊――――それも『最速の空賊バルフレア』と出会って、自分の目標の高さを思い知らされた。
そして、それ以外の想いも――――。

バルフレアと出会ってからのことを、ヴァンはひとつひとつ思い出していた。
最初に会ったのは、王宮の宝物庫。
「この物語の主人公さ。」
(あの気障な台詞には、正直引いたよな・・・なんだ、こいつって。
 でも、ガラムサイズ水路を一緒に抜けて、戦闘のイロハを教えてもらった。)
「お前の方が臭いって言ったのさ。このブタ野郎!」
(ああ、ナルビナ城塞牢では助けてもらったなぁ。
 あの時のバルフレアは、本当にカッコよくて、強かった・・・。)
(それに、シュトラール・・・。)
「教えてやってもいいが、自分で感じたいだろ?」
(なんで、あんな気障な台詞がサマになるかな?
 ウインクまでして・・・。)

ヴァンは、自分の顔がなぜか赤くなるのに気付いた。
そっと唇に触れてみる。
(なんだよ、ご褒美って。訳わかんねぇよ・・・。)
あの夜の、あのキスを思い出す度、ヴァンの胸はトクトクと早鐘を打つ。
だけど、当の本人のバルフレアは全然いつもと同じだ。相変わらずヴァンをからかい、バカにして楽しんでいる。
最初、意識してぎこちなかったヴァンも、バルフレアの余りにいつも通りな様子に、途中で自分だけ悩むのがばからしくなり普通に振舞えるようになった。
(やっぱ、からかわれたんだよな・・・?)
そうとしか取れないバルフレアの態度だった。


「ヴァ〜ン!」
その時、手を振りながらパンネロがかけよって来た。
ヴァンも軽く手を上げて、階段から立ち上がる。
「こんな所にいたの?もう、すごい探したんだよ!」
「ごめん、ごめん。で、アーシェの熱下がった?」
「うん、今朝はもうなかったけど、食欲がねぇ・・・」
「そうか・・。バザーでフルーツでも買ってく?」
「そうだね。」

パンネロと他愛もない会話をしながら、ヴァンは心の中では違うことを考えていた。
(もし、オレがパンネロみたいに女の子だったら、悩まないのかな?)
パンネロがバルフレアにハンカチを返したとき、ほんのり頬を染めていたことを思い出す。
(バルフレアかっこいいもんな。女の子なら喜ぶよな。)
バザーでフルーツを選びながらも、思考はバルフレアの方へ流れる。
(やっぱり、お似合いなのはアーシェだよな。美男美女で・・・。)
手にしたりんごの色がバルフレアの瞳の色に似ていて、思わずヴァンは考えを口に出してしまった。

「バルフレアって、アーシェのこと好きなのかな?」

ピタリと、パンネロの手とおしゃべりが止まる。
「ヴァン?」
パンネロに不思議そうに振り返られて、ヴァンは自分の失敗に気付いた。
「あ、違う!へんな意味じゃなくてさ、ほら!あの指輪のことが気になってさ!」
しどろもどろに言い訳をする。
だが、指輪と聞いてパンネロは「あ〜」と頷いた。
「そうよね。あれは意味深よね。」
「そう!そうだろ?」
何がイミシンなのかわからないまま、ヴァンは話をあわせる。
「あの指輪、形見の指輪なんだよね。アーシェ様泣きそうな顔してた。」
「そう・・・。」
「あんな事されたら、いやでも意識するよね。」
「意識・・・?」
「うん、だって亡くなった旦那様の指輪持ってるんだよ?旦那様のこと思い出す度に、その指輪持ってるバルフレアさんのことも思い出すじゃない!」
「・・・うん。」
「アーシェ様って、いつも癖みたいにあの指輪さわってたし。」
「・・・そう。」
「なんか〜、バルフレアさんて、そういうとこ恋愛上級者ってカンジだよね!」
「・・・そう、なんだ・・」
「や〜ね、ヴァン。だから、バルフレアさんがアーシェ様のこと好きだって思ったんじゃないの?」
「あ、・・・うん。」


ヴァンは、なんだか急に世界の色と音が消えたような気がした。
足元が崩れる――――そんな感覚。
「ごめ・・ん、パンネロ。オレ急用・・思い出した。」
そう言うのが精一杯で、ヴァンは止めるパンネロを残し、急いでその場から走り去った。


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