一の篭(本編沿い)

□お墓と亡霊と少年と
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お墓と亡霊と少年と 


レイスウォール王墓。
覇王レイスウォールの眠る王墓の内部は、墓所というより迷宮に近かった。覇王の遺産が納められた最深部に行くためには、幾重にも作られた古代の仕掛けを解き、隠された通路を探し当てねばならなかった。
しかも、地からゾンビがわき、空を死霊がさまよう中を進むのは、精神的にも肉体的にもダメージが大きかった。

「ここは、一旦地上に戻りましょう、殿下。一気に最深部へと向かうのは危険です。」

無念そうにウォースラが言うと、いつもなら強気のアーシェも青白い顔で頷いた。
やっとの思いで地上に出ると、外はすでに夕方だったが、一同はその茜色の日の光にほっとする思いだった。
幸い、好奇心の強い道具屋が、一行の後を追い王墓の前まで来ていたので、食料やアイテムの補給がすぐできたのはありがたかった。
早めに食事をすませると、火の見張り番を残して、皆早々に天幕に引き上げた。


今夜の見張り番の一番手はバルフレアだった。
彼はこういう時、必ずといっていいほど銃の手入れをする。空を飛ぶことを封じられた今、彼が唯一心穏やかに静かにすごせるひとときだったのだが    
ガサリと音がして、天幕からヴァンが出て来た。
金色の髪をかきながら、
「水飲みたくって・・・、さ。」
と言うと、バルフレアから少し離れた地面にぺたんと座った。
月明かりのせいか、ひどく顔色が青白い。唇にも血の気がない。
「こっちを飲めよ。」
バルフレアは、水を飲もうとするヴァンにポーションを渡した。
ポーションの味があまり好きではないヴァンは、ちょっと顔をしかめたが、おとなしく受け取って飲んだ。
よく見ると、ヴァンのむき出しの腕にはあちこち青アザがついている。死霊たちに生気を吸い取られた痕だろう。
「まったく、お前は・・・。」
いつものようにバルフレアは呆れたように舌打ちしながら、ヴァンの腕を取り、丁寧にケアルをかけて青アザの痕を消していった。
「むやみに突っ込んで行くな。少しは、状況に応じた戦い方ができるようになれ。」
「うん、・・・わかってる。」
いつもは、すぐに口を尖らせて言い返すヴァンだが、今日は大人しくされるままにして、素直に小言も聞いている。そんなヴァンがつまらなくて、バルフレアはヴァンの顔を覗き込んだ。
焚き火に照らし出されたヴァンは、どこか感情が抜け落ちたようなうつろな顔つきだった。
それは、いつものヴァンとはまったく違う顔――――だが、バルフレアはその顔に見覚えがあった。

(兄貴か。こいつは、また兄貴のこと考えている。)
ナルビナ城塞牢で、バッシュと出会い『兄の死の真相』を聞いた後に、ヴァンは時々こんな顔をしていた。
(納得したんじゃなかったのか?答えを出したんじゃなかったのか?)
苛立たしい気持ちで、バルフレアは眉間にしわを寄せた。
それは、ほんの数日前のことなのに。
はぐれウルタンの悲劇にきちんと向き合えていたのに。
目の前の少年は、いつもの太陽のような快活さが消え、月のように儚げな風情だ。
触ると折れそうで、消えそうな、細い肩。
バルフレアはその肩をつかんで、思いっきり揺さぶりたいような衝動を感じた。
そんなバルフレアの心中を知るわけもなく、ヴァンはぼんやりと焚き火を見つめていたが、やがてぽつりとつぶやいた。
「人だったのかな・・・」
何のことか解らず、バルフレアはヴァンを見た。
ゆっくりとヴァンは焚き火からバルフレアに視線をうつす。
「あいつら、元は人だったのかな・・・?」
ヴァンの顔はひどく屈託していた。
「あいつら・・?」
「王墓にいたゾンビ達。元は人だったのかな・・・?」
そう言うと、くしゃりとヴァンの顔が歪んだ。




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