ラビリンスの篭(DDFF)

□Labyrinth 安息の回廊 〜弐〜
1ページ/1ページ



Labyrinth

【 安息の回廊 〜弐〜 】



オニオンナイトは、いつものように朝早く起きると、まだぐっすり寝ている他の仲間を起こさないようにこっそりとテントを出た。
朝のエルフ雪原は寒さが一段と厳しく、吐く息も白く凍える。だが、オニオンナイトはこの朝の凛とした空気が大好きだった。
「よう、相変わらず早いな。」
早朝の火の番をしているジェクトが、声をかけてきた。
「おはようございます。」
律儀に頭を下げて挨拶をするオニオンに、ジェクトは笑いながら聖域の方向にのびた岬を指差して言った。
「お目当てのヤツなら、さっきあっちへ行ったぜ。」
「ありがとうございます。」
嬉しそうに礼を言うオニオンに、ジェクトは軽く手を上げた。
そんなジェクトにもう一度ぺこりと頭を下げると、オニオンは軽い足取りで岬へと駆け出した。
(ジェクトさんは大人だな。)
オニオンは走りながら、心の中で思った。
(いつも、火の番だって皆がつらい早朝か真夜中を引き受ける。いい加減なように見えて、ちゃんと周りを気にかけている。豪放でいて繊細な気配りができる人だ。)
そこで、オニオンはふっと苦笑いを浮かべた。
(空気の読めない自称”大人”の空賊と、えらい違いだ。)
そう考えた時、岬で剣の稽古をするウォーリアが見えてきた。
「おはようございます!」
オニオンはヴァンのことを頭から追い払うと、ウォーリアに元気よく挨拶をした。


「ありがとうございました。」
小一時間ほどウォーリアに剣の稽古をつけてもらい、オニオンは弾む息で礼を言った。
「いや、私も良い訓練になった。」
優しく微笑むウォーリアを、オニオンはまぶしそうに見上げた。
ウォーリアは丁寧に剣を拭って鞘に納めると、オニオンに言った。
「さ、私はこの辺りを少し偵察してから帰る。君は先に皆の所へ戻るといい。」
オニオンはその言葉に少し残念そうな顔をしたが、素直に頷いた。
「はい。では、失礼します。」
そう言って立ち去りながら、オニオンは(この人も正真正銘の大人だ)と思った。
以前、こんな風に稽古を付けてもらったところをヴァンに見咎められて、見当違いな非難を浴びた。今度もそんなことがないように、さりげなく気を使ってくれたのだ。
(僕もこんな風な大人になりたい。)
オニオンはそんな希望に胸を膨らませて、野営地点へと戻ってきた。


すると、ぼつぼつと皆が起き出してきた頃で、ラグナとスコールは並んで顔を洗っており、ジタンやバッツはアクビをしながらテントから出てきた。
ティファとユウナは、朝のスープを火にかけながらジェクトと話をし、ライトニングはカインと今日の打ち合わせをしていた。
そんな中をオニオンは朝の挨拶をしながら通り抜け、汗をかいた服を着替えるためにテントに入った。
薄暗いテントの中には、安らかな寝息をたててまだ寝ている人物がいる。こんもりと盛り上がった寝床を横目で睨んで、オニオンは溜め息をついた。
(まだ寝てるのか。たく、どこが大人なんだよ・・・。)
先程自分がなりたいと感じた理想の大人像と、あまりにかけ離れたヴァンのだらしない有様にオニオンは呆れた気分になった。
(どんな間抜け面で寝ているか、見てやろう。よだれでも垂らしてたら、うんとバカにしてやる。)
そう思いながら、オニオンはヴァンの顔にかかった毛布をそろりとめくってみた。
だが、オニオンはヴァンの寝顔を見てドキリと驚いた。
(なに、この寝顔・・・!)
オニオンは、大きな緑の瞳をぱちぱちさせた。
ヴァンは、絵に描いたような安らかな表情で眠っていた。
口元に柔らかな笑みを浮かべ、微かに開いた唇からは規則正しい寝息がもれる。横向きの姿勢のためか、無造作に腕を横にのばし、それがまるでオニオンを誘っているようだった。
あの腕に頭をのせて、温かなヴァンの首筋に顔を埋めて眠ったら、どんなに心地よいだろう。このままヴァンの隣にもぐりこめば、早朝の凍てた空気に赤くなった頬も、身体も、きっと温かく溶かしてくれるにちがいない。
オニオンはふらふらと引き寄せられるように、ヴァンに顔を近づけた。


その途端、ヴァンがもぞりと身じろぎして、派手に大きなくしゃみをした。
「はっくしょん!うっ、さむ・・・。」
オニオンが毛布をめくったために、寒さで目覚めたらしい。オニオンは、顔を赤くしてパッと飛びのいた。
「い、いつまで寝てるのさ。ヴァン、起きる時間だよ。」
慌ててオニオンがそう言うと、ヴァンは頭をかきながらフワリと笑った。
「あれ、もうそんな時間?みんな飯食ってる?」
「ううん。まだ、ティファ達が準備してたけど。」
オニオンがそう言うと、ヴァンはまた毛布を肩まで引き上げた。
「そっか。なら、まだもうちょっと寝れるな。」
「え?」
オニオンは驚いて目を丸くした。
「ちょっと、ヴァン。まだ寝る気?朝ごはんはまだでも、もう皆起きてるよ!」
慌てたように言うオニオンに、ヴァンは笑いながら手を伸ばした。
「いいんだよ、ちょっとくらい遅れても。ほら、お前も来いよ。」
「わっ!なに・・・。」
あっという間に毛布の中に引き込まれて、オニオンはヴァンの温かな腕にすっぽりと包まれた。
「ほら、こんなに冷たいほっぺたして。風邪ひくぞ。」
すりすりと温かい手で顔を撫でられて、オニオンはみるみる顔を赤くした。
(さっさとこの手を払いのけて、飛び出さなくちゃ。)
そう思うのに、オニオンはヴァンの温かい手の心地よさに身動きできなかった。
(やっぱり、あったかい・・・。)
寒さで痺れていた足先が、ヴァンの体温で柔らかく溶けていく。頬の下のヴァンの腕はすべらかで張りがあり、稽古で疲れた身体はとろとろと眠気に包まれていく。
(少しだけ、ほんの少しだけ・・・。)
瞼が重くなり、やがてヴァンの寝息とオニオンの寝息が重なっていく。
そうして心配したラグナが起こしに来る三十分後まで、二人は静かに抱き合ったまま安らかな眠りに落ちていった。



〜FIN〜


(2011/12/2)



いつもは、ベッドに引きずり込まれるのはヴァンだけど、玉ちゃん相手なら逆もありですよね^^
二人の寝顔は、きっとラグナがやきもち焼くくらい幸せそうで可愛いに違いないvv

.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ