ラビリンスの篭(DDFF)

□Labyrinth 安息の回廊
1ページ/1ページ



Labyrinth

【 安息の回廊 】


エルフ雪原の野営の夜。
スコールとの火の見張り番を終えて、ラグナは冷たい手を擦り合わせながら自分のテントに向かった。
火の側にいたというのに身体が凍えるように冷たいのは、余りに噛み合わなかったスコールとの会話のせいなのか。

(いや、噛み合わないというより、ありゃ一方通行というか、完全無視されてた気がするな・・・。)

ラグナは弾まない会話の繰り返しだった三時間を思い出して、幾分情けない気持ちになった。しかし、テントの入り口の布に手をかけながら、ニヤリと笑う。

(よし、こんな時はヴァンの抱き枕だ。)

今頃ぐっすり眠っているだろうヴァンの隣に潜り込んで、あの柔らかな温かい身体を抱き締めれば、きっと身体も心も温まるにちがいない。ラグナはその邪な考えにほくそ笑んだ。
だがテントに入ると、ヴァンは片ひじをついて上半身を起こしていた。ラグナは先ほど浮かべた笑みを落胆の色に変えた。
「ヴァン、起きてたのか?」
ラグナが小声で聞くと、ヴァンは慌てて振り返り、人差し指を口に当てた。
「しー、ラグナ。ネギ坊主が起きるだろ。」
見れば、いつもは寝相の良いオニオン・ナイトがヴァンの隣に転がって来ていた。そのオニオンを胸元に抱き込むようにして、ヴァンは年下の少年の寝顔を見守っていた。



今夜このテントは、ヴァン、オニオン、ジタン、バッツ、ラグナの五人が使っていた。寝相の悪いヴァンとバッツは定位置の両端で、バッツの横にオニオン、真ん中にジタン、その横にラグナの順に寝たのだが、途中でラグナは火の番でいなかった。
そして、ラグナと入れ代わりでジタンが火の番でテントを出た。間の二人がいなくなって、オニオンはヴァンの横まで転がったようだった。
「可愛い顔して寝てるよな。」
ヴァンは、そっとオニオンの髪を梳いてやりながら言った。
「起きてる時は大人ぶって偉そうな口きくけど、やっぱ子供なんだよ。もっと甘えればいいのにな。」
そのヴァンの言葉は、いつもラグナがヴァンの寝顔に思うことだった。
「ヴァン君だって似たようなもんだけど?」
つい笑ってラグナがそう言えば、たちまちヴァンは口を尖らせた。
「オレはこいつと違って大人だって!」
「ほら、すぐムキになる。それが子供の証拠だ。」
ラグナの指摘に、ヴァンはプイと頬を膨らませた。
そのますます子供っぽい仕草に、ラグナが思わず吹き出せば、今度はヴァンは顔を赤くして怒り出した。
「もう、なんだよ。笑うなよ!」
そのヴァンの声に、オニオンがモゾリと動いた。
「う・・・ん、もうヴァン、放っておいてよ・・・。」
そう言いながら、オニオンはバッツの方へと寝返りを打った。
「あ・・・。」
ヴァンの顔が悲しげに曇る。すると、また転がりながらオニオンが言った。
「ピーマンだって・・・ちゃんと自分で食べる・・から・・・。」
その言葉で、オニオンの夢の内容がわかり、ヴァンは可笑しそうに笑った。
「なんだ。寝ぼけてんのか、あいつ。」
どこかホッとした顔で、ヴァンは言った。
そして、その様子を黙って見ていたラグナは、すかさず空いたスペースに潜り込んだ。
「あ、なんだよ、ラグナ。ここで寝るのかよ?」
不満そうなヴァンに構わず、ラグナはヴァンを抱き寄せてその温もりに目を細めた。
「もともと、ここが俺の場所だからな。あ〜、あったかい。やっぱりヴァンはあったかいな〜。」
「わ、冷たい!なんでこんな冷たいんだ?」
ぎゅうぎゅうと冷えた身体を寄せてくるラグナに、ヴァンは顔をしかめた。
「こんな雪の野っぱらで火の番してみろ。凍えるって!」
ラグナは構わず足までヴァンに絡めた。
ヴァンはラグナの冷たさにブルッと身体を震わすと、上目使いにラグナを見上げて言った。
「それだけじゃないんだろ。どうせ、スコールに無視されまくって身体も心も凍えたんだろ。」
「お、鋭いね!」
おどけて頷くラグナに、ヴァンは溜め息をついた。そして、諦めたようにラグナの背中に手を回すと、温かな手でゆっくりとラグナの背中を撫でた。
「仕方ないおじさんだな。オレが温めてやるよ。」
「サンキュー、ヴァン君。大好きだよ。」
「大好きは余計。」
「ちぇっ、冷たい・・・。」


本気とも冗談ともつかない軽口の応酬をした後、ヴァンとラグナは黙ってお互いの身体を抱き締めあった。
温かなヴァンの息が首筋に当たって、ラグナがそのくすぐったさに目を細めた時、ヴァンがポツリと言った。
「こんな風に、誰かにぎゅっとしてもらうのって、いいな。」
「そうだな。」
ラグナが静かに答えると、ヴァンは身体の力を抜いてラグナの胸に顔を埋めた。
「何だか、とっても安心できる。」
そんなヴァンの髪に、そっとキスを落としてラグナは小声で囁いた。
「好きな人になら、尚更だろ?」
すると、ヴァンは小さく笑った。
「そういうことに、しといてあげるよ。」
「ちぇっ、やっぱ冷たい・・・。」
ラグナはそう残念そうに言ったが、口元には柔らかな笑みを浮かべていた。
そして、更に強くヴァンを抱き寄せると、その温かさに身も心も満たされて、安らかな眠りへと落ちていった。



〜FIN〜


(2011/11/4)

.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ