DDFFの篭

□Half bitter love
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スコヴァン的現代パラレル

【設定】

ヴァンとスコールは、違う高校に通う高校2年生。
だが、2人は同じイタリアン・レストランでバイトしている。
窯焼きのピザとパンが人気のその店のオーナーはジェクトだが、息子のティーダが所属するブリッツのクラブコーチをしていて、店はほったらかし。
店は、チーフマネージャーのウォーリアと、サブのライトニングがしっかり管理している。
厨房は、料理長のガブラス、カイン、ティファ、ドルチェ担当のセシル。
フロアには、正社員のユウナとフリオニール。
バイトは、ヴァン、スコール、ジタン、ティナ。

ヴァンとスコールは、お互いを意識しながらも踏み出せないでいる。
そして、バレンタインの日。



* Half bitter love *



「はあ―、忙しかった―。」

スタッフルームに戻ってくるなり、ヴァンは深い溜め息と共に、ドサリと椅子に座りこんだ。
今日は、2月14日すなわちバレンタインデイ。
ただでさえ、美形揃いの店員目当ての女性客が多いのに、今日はまた特別に大盛況だった。
皆、目当ての店員にテーブルに来てもらおうと、やたら細々と注文を繰り返す。こちらも心得ているから、なるべくお客の要望に添うようにするのだが、いかんせんお客の数が多い。
バイト4時間の勤務時間中、いつもの倍以上の客の数を倍以上の気を使ってこなした。疲れない訳がなかった。

「しっかし、今日はすごかったなぁ。なあ、チョコ何個もらったか比べっこしようぜ。」
バイト仲間で1つ年下のジタンが、笑いながらヴァンに言った。
「そんなの比べなくても、1番は決まってるだろ。」
ヴァンは椅子から立ち上がりながら、口を尖らせた。
「ああ、そっか。」
ジタンも頷いて、黙って着替えるスコールを振り返った。
スコールの足元には、沢山のチョコが入った紙袋が2つ。ヴァンやジタンも結構もらったが、数も質もスコールの方が明らかに上だった。
「まあ、来年はみてろって!きっと、レディー達は俺様の魅力のとりこさ。」
力強く宣言するジタンに、ヴァンは溜め息をついた。
「お前のその根拠のない自信が、羨ましいよ。」
そんなヴァンの肩を軽く叩いて、着替え終わったジタンはロッカーを閉めた。
「くよくよすんなって。じゃあ、また明日な。」
「くよくよしてねっつーの!」
帰るジタンに憎まれ口をたたきながら、ヴァンは手を振った。
そして、ロッカールームはヴァンとスコールの2人きりになり、しんと静かになった。


「さて、と。着替えるか。」
誰に言うともなく呟いて、ヴァンはロッカーを開けた。すると、ロッカーの扉についた小さな鏡に、黙ってヴァンを見るスコールが映っていた。
「何?」
鏡のスコールに、ヴァンは問いかけた。
その問いかけに答えずに、スコールは黙って自分がもらったチョコの紙袋を差し出した。
「何、それオレにくれるって言うの?」
驚いて振り返ったヴァンに、スコールはやはり黙って頷いた。
ヴァンの頬が、さっと怒りで赤くなった。
「なんだよ、それ。自分がちょっとモテるからって、オレを馬鹿にしてんのかよ?」
怒りでキラキラと瞳を光らせるヴァンを、スコールはまぶしそうに見て首を振った。
「違う。こんなの、意味がないから。」
「意味がないって、お前・・・。」
スコールの答えにヴァンは呆れて、怒りを収めた。
「そんなこと言ったら、せっかくくれた女の子達に悪いだろ。意味がないなんて言うなよ。」
諭すように言うヴァンを、スコールは正面からじっと見つめた。
「俺にとったら、意味などないさ。本当に欲しいヤツからはもらえない。」
ヴァンは、その言葉にドキンとした。
「スコールには、いるのか?そんな・・・、チョコが欲しいヤツが・・・。」
微かに震える声で、ヴァンは尋ねた。
黙って頷くスコールに、ヴァンは胸が潰れる想いがした。

(そりゃあ、そうだよな。スコールにだって、好きな子はいるはずだ・・・。)

背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、ヴァンは殊更明るい声で尋ねた。
「へえー、どんな子だよ?スコールの好きな子って。」
スコールは一瞬ためらったが、目を伏せたまま話しだした。
「そいつは、いつも賑やかで風みたいに自由なヤツで、俺の気持ちなんてお構いなしに踏み込んでくる。」
「・・・。」
ヴァンは耳から流れ込んでくるスコールの言葉に、目を見開いた。
「嫌だと思うのに、目が離せない。声が聞こえないと寂しく思う。笑うと白金色の髪がさらさら揺れるのを、触ってみたいと思う。」
スコールはそっと手を伸ばして、ヴァンの白金色の髪に触れた。ヴァンの身体が、ビクリと震えた。
「待てよ、スコール。それって・・・、まるで・・・、」
まるで体中が心臓になったかのように、うるさく鼓動が騒ぐ。
呆然と立ち尽くすヴァンに、スコールは頷いた。
「お前だよ、ヴァン。」
その言葉に、ヴァンはパッと顔を赤くすると、慌ててスコールから飛びのいた。
「だ、だめだ。だめだよ、スコール!」
「ヴァン?」
驚くスコールに、ヴァンはくるりと背を向けて早口でしゃべりだした。
「スコール、もてるんだぞお前。そのこと分かってるか?オレが好きだなんて、理想が低すぎるぞ。もっと、ちゃんと選べよ。」
ヴァンの言葉に、スコールはたちまち顔を曇らせた。
黙って自分のロッカーに戻ると、手早く帰り支度を始めた。怒りと失望で、手が震えているのが自分でも分かった。
その間にも、スコールの後で続くヴァンの言葉が、否応なしに耳に入ってきた。
「オレなんて、めっちゃくちゃ理想が高いんだぞ。オレの好きなヤツなんて、スゲーもてもてでバレンタインにチョコ2袋ももらってさ、それなのに、それを意味がないって言うヤツで・・・。」
ロッカーにかけたスコールの手が止まった。
「普段無口なくせに、こんな時に最高に格好いいこと言ってさ。オレ、もうパニックになるよ。ただでさえ好きなのに、もう・・・どうしろって言うんだよ。」
ゆっくりと顔を上げたスコールの目に、肩を震わせながら話すヴァンの後ろ姿が、ロッカーの鏡に映っていた。

「この馬鹿。」

スコールは鏡に向かってそう呟くと、急いでロッカーを閉めた。そして、後ろに佇む素直じゃない恋人を、ぎゅっと強く抱き締めた。




〜FIN〜


(2012/2/23)

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