DDFFの篭

□FF12ヶ月物語
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* FF12ヶ月物語 *


【 1月・・・1X12 】


「なあ、名前まだ思い出さないの?」

食事の最中、突然かけられた質問。
私は正直、誰への質問なのかすぐには分からなかった。
だが、こちらを見詰めるまっすぐな瞳。答えを待つ、期待に満ちた蒼い双眸。
ああ、私のことなのだと理解すると共に苦笑した。

名前がないのだから、呼びかけれないのは仕方がない。
ならば、こんな食事時の皆の声が飛び交う中で、わざわざ名前がない私に話しかけなくとも良いものを―――とも思うのだが、彼の場合そんな思案はまったくしないらしい。
聞きたいことがあれば、すぐに口にする。
それが相応しくない時だろうが、相手が誰だろうが、気にしないらしい。
そんな彼を仲間達は、特にあの小さな騎士は、怒ったり嗜めたりしているようだが効果は全くといってないようだ。


「ああ、思い出せないままだ。」
私がそう返事すると、彼は大きな蒼の瞳を驚きで丸くし、そしてぱちぱちと何度か瞬かせた。
彼のすぐ横に座っている小さな騎士が、そんな彼を不安げに見詰めている。何かあれば、すぐに彼を止めようと身構えている様子がありありと見て取れた。
だが、彼は子犬のような人懐っこい笑顔を浮かべると言った。
「そっか。でも、そのツノカブトですぐにあんたって分かるから、不自由しないな。」
その言葉に、私は苦笑しながら頷いた。


今まで私が名前を思い出せないことを、不憫がったり訝しく思う仲間は多かった。実際、自分でも不思議に思い、不安に揺れたこともある。
だが、彼は「不自由しない」と笑い飛ばす。
兜が目印になるそうだ。
随分と失礼なことを言われた気もするが、そう言われれば何となく安堵する自分がいるのも確かで、存外私も安いものだと思う。
私がそんな想いにとらわれていると、小さな騎士が彼に噛み付いていた。
「何言ってんだよ、ヴァン。失礼だろ!あの人は兜なんかなくたって、すぐに分かるし!」
「だって、あのツノカブト目立つじゃん?」
「にしても、失礼なんだよ。」
「お?なら、お前もあのツノが目立つのは認めるんだな?」
「うっ、それはそうだけど・・・、いや違う!僕は認めないぞ!」
「さっきは認めたくせに。」
「だから、違うってば!」
二人の会話は延々と続き、やがて他の仲間達も「何事か」とその輪に加わっていく。


ああ、彼の周りはいつもこんな風に人が集まる。
私のことを「光の戦士」などと呼ぶ仲間もいるが、彼の笑顔こそ光に満ちている。
そんな事を考えながら、私はまた中断した食事に戻った。すると、手にしたスープの皿に、珍しく楽しげに微笑んでいる自分の顔が映っていた。



〜FIN〜


ゲームでは、ウォーリアは最後まで名前を思い出せない――という設定でしたね。
ヴァンがそんなウォーリアを「ツノカブト」と呼んでいたことからの妄想話です。



(1月 拍手文)


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